2026/6/23

医療といえば「足りないものを増やす」というイメージが強い。だが今、国の政策は逆を向いている。2025年12月に成立した改正医療法は、病床を「減らす」ことを後押しする仕組みを盛り込んだ。
病床を削減した医療機関には補助金が出る。その代わり、削った分だけその地域で許される病床の上限も自動的に下がる。一度減らせば、簡単には元に戻せない。2027年4月に始まる新しい地域医療構想と合わせ、全国で病院病床を大きく圧縮していく流れが固まりつつある。
なぜ今、削減なのか。背景には、人口減少が進む地方で病床が余り始めているという全国的な事情がある。使われない病床を抱え続けることは、医療財政にも医療機関の経営にも重い。だから「全体として減らす」方向に舵が切られた。
この削減政策の中心にあるのが、基準病床数という考え方だ。聞き慣れない言葉だが、意味はシンプルで、「その地域に置いてよい病床数の上限」のことを指す。
二次医療圏と呼ばれる地域ごとに、人口の年齢構成や病床の使われ方をもとに、全国共通の計算式で算定される。既存の病床がこの上限を超えている地域では、知事が新しい病院の開設や増床を認めないことができる。要するに、病床が増えすぎないようにするためのブレーキだ。
ブレーキそのものは合理的だ。問題は、このブレーキが「これから患者が増える地域」にも一律にかかってしまう点にある。
高齢化のスピードは、地域によって正反対だ。地方では高齢者人口がすでに減り始め、医療需要も縮んでいく。一方、東京をはじめとする都市部では、高齢者人口が2040年頃まで増え続ける。医療需要のピークは、まだずっと先にある。
ところが基準病床数は「いま必要な数」を起点に計算されるため、将来の急増を十分には織り込めない。結果として、人口が増え続ける都市部ほど「これから需要が伸びるのに、上限が増床の壁になる」というミスマッチが起きやすい。
実際、全国の病床総数は必要量とほぼ釣り合っているとされる。だが地域ごとに見れば、明らかに足りない区域と、はっきり余っている区域が併存している。「全国平均では足りている」という数字が、特定の地域で進む不足を覆い隠してしまうのだ。
医療制度は全国一律の計算式で組み立てられている。効率的である半面、急増する地域の実情を取りこぼしやすいという弱点がある。全国の削減トレンドの中に、需要が伸び続ける地域の事情は埋もれがちだ。
人口が増え続ける都市部の自治体にとって、この構造的なズレをどう監視し、どう声を上げていくかは、住民の安心に直結する。全国の方針と地域の実需要のあいだに生まれる溝は、平均値の議論だけでは決して見えてこない。
では、人口が増え続ける東京の現場では、この「平均では見えない格差」が実際にどこまで進んでいるのか。23区で最も人口が増えた江東区を例に、エリアごとの高齢化率や病床の実態をデータで検証しました。
▶ より詳細な分析はこちら:人口増加23区一の江東区で、病床は足りるのか —急増する街が抱える医療の構造問題
中島ゆうたろう(江東区議会議員・都民ファーストの会)
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