2026/3/30
兵庫県川西市議会議員(参政党) #長田たくや です。
同じ原子なのに構造が変わるだけで薬効が変わる? そんな不思議な現象が光学異性体です(第2弾)。

コロナ禍の時に大活躍した咳止め薬も関係するお話です。
第1弾:不思議な光学異性体の話①
■ レボセチリジン
セチリジンというアレルギーのお薬があります。
ジルテック®という商品名で1998年に販売開始されました。
ジルテック錠5mg: 17.8円/錠
ジルテック錠10mg: 21.0円/錠
こんな構造のお薬です。

注目してほしいのが⇒の部分。炭素原子がありますね。

省略されているH(水素)を表示すると、手が4本ありますね。それが奥にあるか手前にあるかで構造が変化するのです。
それぞれ赤・黄・青で分けてみました。

この水素が上を向くか、下を向くかで構造が変わります。

このL体のグレーの部分(水素)をつまんで、上向きにひっくり返してみましょう。

このように合わせ鏡のようになりました。
これを光学異性体(エナンチオマー)と言います。
同じ構造式ですが、物性や薬効が変わるという不思議なことが起こります。
ジルテック(セチリジン)は、d体とl体が1:1で共存しています。
■ 薬効が全然違う!
抗ヒスタミン作用がメインとなりますが、関係するヒスタミン受容体への結合力がd体とl体で全然違うのです!
セチリジン(ジルテック)の結合力を1とすると
d体:0.06
l体:2
d体がほとんど役に立っていないことがわかります。
そこでl体だけを選択した薬剤が2010年に誕生しました。
それが レボセチリジン(ザイザル®)です。
ザイザル錠5mg: 41.10円/錠
ジルテックのちょうど半量となっていますね。半分で十分に効果が得られるということです。
なお、ジェネリックには、2.5mg錠もあって、子供さんには向いている用量となります。ジェネリックは価格だけではなく、ユーザーフレンドリーになれます。
このように光学異性体のうち、片方だけを医薬品にするという開発手法は多くあります。
■ 咳止めか幻覚剤か
コロナ禍にて、やたら品切れになったのが咳止め薬の デキストロメトルファン(メジコン®) です。
安全性の高い薬で、バンバン処方されますが、実はこれも光学異性体の片側なのです。

デキストロメトルファンは、安全に使用できる咳止め薬ですが、レボメトルファンはモルヒネのような作用をもち、幻覚作用などを誘発するため医薬品として使用されていません。つまり、作用が強烈すぎたのです。
すごーく身近な薬ですが、構造が鏡合わせで違うだけで「毒」になるということです。
■ 抗生剤
セチリジンと同じような理屈で分離された抗生剤があります。
オフロキサシン(タリビット®)というニューキノロン系の抗生剤です(適応菌種が広い)。
タリビット錠100mg: 82.8円/錠

この構造式の中に、前述したレボセチリジンと同じような炭素原子の構造が隠れています。

こちらもl体がめっちゃ強くて、d体がめっちゃ弱い。
だからl体だけを抽出した レボフロキサシン(クラビット®)が1993年に誕生しました。
クラビット錠100mg
その後、3回に分けて飲むよりも一気に大用量を服用した方が効果的だということがわかり(PK/PD理論)、2009年に規格が変わりました。
クラビット錠250mg: 65.0円/錠
クラビット錠500mg: 115.2円/錠
タリビット(オフロキサシン)はお役御免か?と思われますが、現在でも目薬や眼軟膏剤として今も使用されていますね。
クラビット点眼も販売されたため、いよいよ需要は眼軟膏だけになりましたが。
■ ゾピクロン
睡眠薬のゾピクロン(アモバン®)という薬も2つの構造(R・S)が混合されています。
1989年販売:アモバン錠
・7.5mg:11.8円
・10mg:12.9円

昔は、光を当てた時に曲がる角度の違いからd体、l体を決めていましたが、近年では構造を中心にルール付けられており、R・S表記が主流となりました。
アモバンには、特徴的な副作用「苦味」があります。
飲むときに苦いというよりも、代謝後に唾液から分泌されたゾピクロンが、苦味として口の中に広がるというなんともし難い副作用でした。
R体は、効果が弱く、かつ苦味の主役となっていました(完全に悪役)。
そこでS体だけを選択した エスゾピクロン(ルネスタ®)が開発されました。
2012年販売:ルネスタ®錠
・1mg:28.50円/錠
・2mg:46.60円/錠
・3mg:54.70円/錠
mgに注目するとアモバンに比べてずいぶん少量であることがわかります。逆に言えば、S体だけにすれば少量で効果を示すということです。
レクサプロ®という抗うつ剤も エスシタロプラム というS体だけを選択した医薬品です。
海外ではシタロプラムが販売されていましたが、日本では未承認薬です。
ややこしいですが、要は構成する原子は全く同じだけど、構造が違うことで物性・薬効が異なるという恐ろしく複雑な世界があるということです。
本日、紹介した薬剤は、体内でR体・S体が変わることはありません。そのため単離する価値があるのですが、体内で勝手に変化するものもあるのです。次はそんなやっかいな現象について書きましょう。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
素敵な1日でありますように。
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