2026/2/10
兵庫県 川西市議会議員(薬剤師) #長田たくや です。
今日は久しぶりに くすり の話題です。

てんかん重積状態に対する 点鼻薬 が開発されました。
これは「アリ」な薬剤だなと感じましたので、解説していきます。
みなさんはどう感じますか?
■ ”てんかん発作”とは?
脳内で過剰な電気信号(神経細胞の異常な同期発火)が生じ、体や意識を制御できなくなる状態を指します。
てんかん発作は、その異常な電気活動により、けいれんや意識障害が出現する発作性の状態です。
【なぜ”てんかん”なん?】
”てんかん”ってそもそも何やねん!って思いますよね。
漢字だと、「癲癇」になります。これは古代中国医学の用語が、そのまま日本に伝わったものです(飛鳥〜奈良時代)。
癲:主に精神・意識の異常
癇:身体のけいれん
つまり、意識の異常と身体のけいれんを伴う病態を指します。
日本には100万人の患者がいるとされています。
英語だとepilepsy(エピレプシー)。ギリシャ語(突然つかまれる)から由来するとされています。
かんしゃく(癇癪)の”癇”も同じ漢字。癪(しゃく)は、こみ上げるものが抑えられない様を指すので、勝負とかに負けてワァー!と騒いだり、怒ったり制御ができないことを、「かんしゃくを起こす」と言うようになりました。

子どもと高齢者に多いのがわかります。
■ てんかん重積状態
通常、ほとんどのてんかん発作は5分以内に自然に治まるそうです。
これが 5分以上持続する、あるいは短時間の発作を繰り返し、その間に意識が回復しない状態をてんかん重積状態(status epilepticus:SEと略すこともある)と呼びます。
以下にてんかん発作時の対応を書いています。
イメージ的に舌を噛んじゃいそうなので、口に何かを咥えさせるが過去のセオリーだったそうですが、医学的に否定されており、何も咥えさせないが良いとされています。誤嚥や介助者の負傷、歯の破損のリスクがあるためです。

家庭や学校でできる対応は、これまで ジアゼパム坐薬(ダイアップ®) 程度に限られていました。坐薬は使用のハードルが高い上、効果発現まで時間がかかるという課題がありました。
■ 脳内の変化
てんかん重積状態では、脳内の神経シナプス(神経と神経のすき間)に変化が生じます。
以下の図だけだと少し分かりにくいので、簡単に解説します。

GABAA受容体は、神経活動を抑制する受容体(ブレーキ役)。
NMDA受容体は、神経活動を興奮させる受容体(アクセル役)。
発作が 5分以上持続すると、GABAA受容体が細胞内に引き込まれる現象(内在化)が起こります。その結果、抑制のブレーキが効かなくなり、
脳が興奮し続ける状態に陥るのです。
このメカニズムを考慮すれば、「NMDA受容体を抑えればよいのでは?」と考えられますが、速効性のある適した薬剤が存在しません。
そこで使われるのが ベンゾジアゼピン系薬剤(ジアゼパム、ミダゾラム、ロラゼパム)です。
これらは GABAA受容体の作用を増強し、脳の過剰興奮を速やかに抑えます。一方、GABAA受容体が内在化すれば、薬剤の効果も効きにくくなります。したがって、早期治療が重要であることがわかります。
効果がなければ、レベチラセタム(イーケプラ®)の点滴が使用されたりもします。
■ 注射しかなかった
これらの薬剤には内服薬もありますが、発作中に内服は不可能で、速効性もありません。そのため、重積状態では 注射剤 が中心でした。
《例》ジアゼパム()内は薬価
錠剤:セルシン®錠2m(9.7円)
注射剤:セルシン®注射液5mg(1本79円)
坐薬:ダイアップ®坐剤4mg(50.7円)
家庭内で即時対応できる選択肢が、いかに限られていたかがわかります。
てんかん発作が 30分以上持続すると、後遺症のリスクが高まることが知られており、まさに 時間との勝負です。
■ 口腔用液剤の登場
このアンメットニーズに応えたのが 口腔用液剤 です。
医薬品:ミダゾラム

商品名:ブコラム®口腔用液
ミダゾラム「Midazolam」を頬粘膜投与「Buccal」できる薬剤として、ブコラムと命名。
販売年:2020年
薬価:1,688.7円/1本~3,474.6円/本(4規格あり)

これはこれで難しそうだけど、坐薬よりは簡便で、効果発現も非常に速い薬剤です。ただし 小児適応のみ で、成人には使用できません(成人での臨床試験が行われていないため)。
■ 点鼻薬の登場
そして2025年6月についに 点鼻薬 が承認されました。しかもこちらは成人にも使用できます。
医薬品:ジアゼパム

商品名:スピジア®点鼻薬
点鼻スプレー「Nasal Spray」にてジアゼパム「Diazepam」を投与できるためスピジア(SPYDIA)と命名。
販売年:2025年
薬価:8,336.50~9,337.60 円/本(3規格あり)
セルシン®注射やブコラム®口腔用液と比べると非常に高価ですが、救急搬送を回避できる可能性や、後遺症治療にかかる医療費を考えると、医療経済的にはむしろ歓迎される薬剤と言えるでしょう。
■ 両剤の比較
ブコラム
スピジア
てんかん重積発作に対して、あらたな治療薬が生まれましたが、成分自体は1950年代に合成された古くからある薬です。製剤工夫によって現代でも使用されることは、医薬品のおもしろい世界でもありますね。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
素敵な1日でありますように。
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