2024/11/8
前回のブログの続きです。※こちらのブログでも、さいとう前知事の「さいとう」について、「斎藤」という表記で統一します。
斎藤前知事がリハックの兵庫県知事選の討論会に出演された際に、公益通報の濫用について触れておられました。
これらも踏まえて、浜田聡事務所より、公益通報者保護法について参議院調査室及び国会図書館へ以下調査依頼をして、回答を頂きました。基本的な情報も含まれていますが、一つずつご紹介していきます。(回答が重複する点は、いずれかの回答のみご紹介しています。)
【依頼内容】
公益通報者保護法について
▼通報対象要件の詳細
∟行政機関における要件と民間企業などにおいて要件が変わる事があるか
参議院調査室/
公益通報者保護法の保護対象者である労働者等には公務員も含まれており、通報対象事実も行政機関と民間企業とで違いはありません。
参考/公益通報ハンドブック(抄)
∟通報対象要件に定義されている(別表、政令)に記載のない法令は対象外という扱いとなるのか(例えば、公職選挙法、政治資金規正法等の罰則付きの違法行為や民法等の違法行為など)
参議院調査室/
御指摘のとおり、別表、政令に定めのない法律(公職選挙法など)は対象外となっております。
法第2条第3項において通報対象事実の範囲を限定した経緯、趣旨については、添付の「消費者庁逐条解説」をご参照下さい。
「通報対象となる法律一覧」↓↓↓
▼通報対象要件を定めた根拠、立法趣旨
通報対象要件のうち、法目的に係る要件(「国民の生命、身体、財産その他の利益の保護に関わる法律」であること)については、2004 年の法制定時、様々な考え方がある中において、国民生活審議会でコンセンサスが得られたのが、国民の生活に密接に関わ
る分野の法律に限るということであったことから、法目的に係る要件が設けられた、という経緯があります。
通報対象要件のうち、罰則(刑罰又は過料)担保の要件については、 法制定時(2004年)からの要件であった刑罰と、法改正時(2020年)に要件に加わった過料とに分けて考えられます。刑罰については、国民生活審議会が、「保護される通報の範囲を明確にする観点から」、規制違反や刑法犯などの法令違反を通報対象とすることが考えられる、と結論付け、これを踏まえて犯罪行為と犯罪行為に関連するその他の法令の違反行為が通報対象とされた、という経緯があります。過料については、「過料により担保されている不正行為については、重大な結果を生じさせるおそれがあること」、「…過料により担保されている不正行為については、明確性があること」等を踏まえ、通報対象に追加された、という経緯があります
法形式に係る要件(法律であって条例ではないこと)については、「地域によって保護される通報の範囲に差が生じることは適当ではないと考えられるためである」と説明されます。
参考資料 消費者庁参事官(公益通報・協働担当)室編『逐条解説公益通報者保護法 第2版』商事法務, 2023、山本隆司ほか『解説 改正公益通報者保護法 第2版』弘文堂, 2023
※紙資料の為ここでは詳細を割愛します。
▼単に違法行為を通報するというものではなく、対象法令を定義した理由
違法行為全般を通報する制度とはならなかった理由としては、上記の立法趣旨で挙げたような事情があります。
特に、対象法令を定義する(限定列挙する)ポジティブ・リスト方式が採られた理由としては、法目的に係る通報対象要件である、「個人の生命または身体の保護、消費者の利益の擁護、環境の保全、公正な競争の確保その他の国民の生命、身体、財産その他の利益の保護に関わる法律[であること]」という規定の文言が抽象的であり、これのみでは対象法律が明確とならないことから、具体的な法律名を「別表に掲げる」と規定された、という事情があると指摘されています。
なお、これに対し、「列挙されていない理由が不明な法律は枚挙に暇がない」として、ポジティブ・リスト方式を問題視し、対象外の法律又は法分野を限定列挙するネガティブ・リスト方式を採るべきであるとする主張もあります。
参考資料 山本隆司ほか『解説 改正公益通報者保護法 第2版』弘文堂, 2023
▼公益通報の濫用(悪用等)を防ぐために留意された点
法案が国会に提出された時点で、国会質疑において、「制度の悪用や乱用を防止するための仕組み」として、「不正の目的、すなわち金品を得る目的や他人に損害を与え、損害を加える目的などで行う通報については保護の対象外といたしている[法第2条第1項]…。…この法律では、国民の生命、身体、財産を守る見地から誠実に行われる通報を保護の対象といたしている[法第1条、第2条第3項、第11条第2項、第18条]」ことを挙げる政府答弁が行われています。
第159回国会参議院内閣委員会会議録第3号, 平成16年3月18日
https://kokkai.ndl.go.jp/#/detail?minId=115914889X00320040318¤t=1
また、法案審議中の国会質疑において、「乱用の懸念に対し、制度としてどのように対応しているのか」との質疑に対し、上述の「不正の目的、すなわち、金品を得る目的や他人に損害を加える目的で行う通報については、保護の対象外として」いることに加えて、「事業者外部への通報については、犯罪行為等の事実が生じていると信ずるに足る相当の理由があることを保護の要件としている[法第3条第2号及び第3号、第6条第2号及び第3号]」こと及び「通報者は、他人の正当な利益等を害することのないよう努めなければならない旨の規定を置いている[法第10条]」ことを挙げる政府答弁が行われています。
第159回国会衆議院本会議会議録第28号, 平成16年4月27日
https://kokkai.ndl.go.jp/#/detail?minId=115905254X02820040427¤t=1
https://kokkai.ndl.go.jp/txt/115905254X02820040427/43
法第2条第1項の「不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的でな」いことの要件については、下記資料に解説されています。
消費者庁「「不正の目的でないこと」の要件に関する整理」
▼内部通報、外部通報のそれぞれの要件
▼第二条の定義について争った裁判例があれば頂きたいです。
当館が契約している判例データベース(LEX/DB, D1-Law)を検索した限りにおいて、法第2条が参照法令として挙げられている裁判例は3例です(下記)。 資料11は、法第2条の「通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしている」という要件が争点の1つとなった裁判例です。その他、消費者庁参事官(公益通報・協働担当)室編『逐条解説公益通報者保護法 第2版』商事法務, 2023には、「不正の目的」について判断した裁判例
(pp.62-63)や、報道機関が法令違反の是正を図るために必要であると認めた裁判例/認められなかった裁判例(p.78)等、参考となる裁判例の要旨が紹介されていますので、御参照ください。
※以下、紙資料の為タイトルのみご紹介します。
資料8 「東京地判平成22年1月15日 オリンパス事件(第一審)」LEX/DBインターネット
より打出し。
資料9 「東京高判平成23年8月31日 オリンパス事件(控訴審)」同上
資料10 「福井地判平成28年3月30日 武生信用金庫訴訟承継人福井信用金庫事件」同上
資料11 「神戸地判令和2年12月3日 社会福祉法人むぎのめ事件」同上
▼通報者が「外部通報」と主張する通報が、外部通報の要件に当てはまらない場合、どのような対応が適切か
今回の調査では、通報者が「外部通報」と主張する通報が、外部通報の要件に当てはまらない場合の適切な対応について言及した資料は見当たりませんでした。ただし、外部通報の保護要件を満たさず、法の保護の対象とならない場合でも、他の法令において公益通報者を保護する規定や、内部告発に関する判例法理(一般法理)によって通報者が保護される可能性があります(日野勝吾『2022年義務化対応 内部通報・行政通報の実務~公益通報体制整備のノウハウとポイント~』ぎょうせい, 2022)。
なお、消費者庁ウェブサイトの事業者向けQ&Aには、「内部通報」の場合ではありますが、「通報受付当時は公益通報ではないと判断していた通報について、後に公益通報の要件を当初から満たしていたことが判明した場合」の対応が掲載されていました(Q11)。また、「不正の目的」の要件については、「不正の目的による通報であるかどうかは最終的には裁判所の判断に委ねられる」旨説明されていました。
消費者庁が公表している事業者における通報対応に関するQ&A
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_partnerships/whisleblower_protection_system/faq
より、一部をご紹介します。
▼公益通報した労働者を、就業規則上の守秘義務違反により懲戒処分できますか。
本法における公益通報の対象は犯罪行為やその他の法令違反行為という反社会性が明白な行為であり、秘密として保護するに値しないと考えられることから、通常、これらの事実について本法に定める要件に該当する公益通報をしても、守秘義務違反を問われることはないと考えられます。なお、公益通報をしたことを理由とした解雇その他不利益な取扱いは本法の規定により禁止されますが、その他の法令違反や内部規程違反を理由とした解雇その他の懲戒処分等の当否については、事案ごとに判断されることになります。
▼公益通報するために、労働者が法令や内部規程に違反して、通報対象事実を証明する資料等を持ち出した場合、資料等を持ち出したことを理由とした当該労働者に対する解雇その他不利益な取扱いは禁止されますか。
公益通報をしたことを理由とした解雇その他不利益な取扱いは本法の規定により禁止されますが、その他の法令違反や内部規程違反を理由とした解雇その他の懲戒処分等の当否については、事案ごとに判断されることになります。
▼公益通報がなされた場合、その公益通報者に以前から問題があった場合であっても、その公益通報者に対して解雇その他の懲戒処分等をすることは禁止されますか。
本法では、公益通報をしたことを理由とした解雇その他不利益な取扱いが禁止されています。公益通報をしたこと以外の理由に基づいて解雇その他の懲戒処分等をすることは本法の規定に抵触しませんが(他の法理により制限される場合はあり得ます。)、後の紛争を防止するために、解雇その他の懲戒処分等が公益通報をしたことを理由とするものではないことについて、客観的で合理的な根拠を示すことができるようにしておくことが望ましいと考えられます。
以下、今回の兵庫県の文書問題について、公益通報者保護法に関する弁護士の見解について御紹介します。
この指針は法11条2項に定める体制整備義務の具体化をはかったものです。法11条2項は、公益通報のうち3条1号及び6条1号に該当するもの(役務提供先等に対する公益通報)についてのみ体制整備を求めていることは条文上明らかです。言い換えれば、本件のような3条3号に当たる公益通報には適用されません。 https://t.co/QjTnSLUQY7
— 野村修也 (@NomuraShuya) 2024年11月7日
公益通報者保護法自体は、こうした解釈を前提に立法されたことは明らか。指針で法律は読み替えられたと主張する人がいるが、行政が立法を覆すことを認めるべきではない。この法制度の建て付けは良くないが、だからといって、法律で命じられていないことをしなかった人を「違法」者扱いすべきではない。
— 野村修也 (@NomuraShuya) 2024年11月7日
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