2024/3/15
こんにちは。30歳の目黒区議会議員、かいでん和弘です。
今後30年の間に70%の確率で起こるとされている首都直下地震。目黒区でもそれに備えて様々な避難所用資機材を毎年整備し続けています(来年度も備蓄食料の更新などのため、1億4,500万円の予算がついています)が、災害用トイレについてはここ数年、動きがありませんでした。
「それって今の数で十分だってこと?」と疑問に思い、試しに計算してみると、十分どころか、大幅に足りていない実態が浮き上がりました。そこで今回は、避難所のトイレについて書いていきます。
災害用トイレにはいくつか種類があります。目黒区の防災倉庫に置いてある主力の3つをご紹介します。
マンホールの上に立てて排泄物をそのまま下水に流せるタイプのトイレで、避難所トイレの主力です。流す水は学校のプールや防火水槽の水をポンプでくみ上げますが、水にも限りがあるのでおそらく数人終わったら流す、みたいな運用になりそうな予感……
※画像はイメージ
工事現場の仮設トイレのようなタイプです。便器下のタンク(便槽)がいっぱいになったらタンクだけ交換したり、バキュームカーで汲み取ったりします。
名前の通り簡易的な便座です。「し尿収納袋」を毎回セットして、排泄のたびに袋を入れ替えます(使い終わった袋の置き場所はどうしますかね……)。なお「し尿収納袋」は、簡易便座以外の便座(水洗トイレの便座など)に取り付けて使う事もできます。
東京都が2022年に公表した『首都直下地震等による東京の被害想定』によれば、目黒区で最も大きな被害が出るのは、都心南部直下地震が冬の夕方、風速8m/sの日に起こったケースです。このとき、目黒区内の上・下水道での被害状況は次のようになります。
ここで確認しておきたいのですが、避難所施設の上・下水道に被害が無かった場合、避難所建物の水洗トイレをそのまま問題なく使うことが可能です。学校の体育館に避難された皆さんは学校校舎のトイレを使えばいいわけですから、ほぼ心配はいりません。
ところが、もし上下水道のどちらかまたは両方が被害を受けてしまった場合、水洗トイレが使えませんので、災害用トイレでやりくりしなくてはなりません。
ではそうした事態は何か所の避難所で起こりうるのでしょうか。先ほどの断水率・管きょ被害率を基に割り出すと、目黒区の地域避難所38か所中、蛇口をひねっても水が出ない避難所は9~10か所、そして下水道に水を流せない避難所は2~3か所くらいになると見込まれます。
今回は、こうした「被害を受ける十数か所の避難所でトイレをどするか」ということを考えていきます。
ここから、「避難所トイレが足りているのかどうか」、細かく計算していきます。
まずは区内の避難者数。都の被害想定によれば、発災1日後、区内全体でおよそ3万9千人が避難所に避難するとされています。
地域避難所38か所で単純に割り算すると避難所1か所あたり1,022人の方が避難する計算です。(実際には体育館の大きさが学校ごとに異なるので、キャパもばらつきが出てきます)
そして、ここからが本題です。この約1,000人の避難者は一日に何回トイレに行くのか。
内閣府が平成28年度に策定した「避難所におけるトイレの確保・管理ガイドライン」によると、災害時の排泄回数は、ひとり1日5回が目安とされています。つまり、1,022人×5回で、避難所トイレには1日5,110回分の処理能力が求められる訳です。
では、今の避難所の体制はどうなっているでしょうか。目黒区では、一番初めにご説明したような各種トイレを、各地域避難所の防災倉庫に備蓄しています。
黄色に塗った下水道直結型トイレが和式1つ、洋式4つの計5基。青く塗った組立トイレが男性小用を含め計3基。そして、緑色で塗った簡易便座が8台です。加えて、この簡易便座には、計800袋のし尿収納袋が付属しています。
なお、これらはあくまで、避難所の倉庫内のリストでして、他にも区内20か所にある拠点的な倉庫・備蓄倉庫にもトイレは保管されています(備蓄倉庫の方にはかなりまとまった数のトイレがあります)。
「目黒区地域防災計画(資料編)」P47より
ただ、発災直後は、道路の寸断や現場の混乱などもあるでしょうし、先ずは飲料水の輸送が優先ですので、トイレを輸送するまでには日数を要することも十分考えられます。そのため発災初日などの初期段階では避難所のトイレだけでやりくりしないといけない可能性が高いです(せっかく備蓄しているのに、それを運べないから使えないんです……)。
そして、これを今度はそれぞれのトイレが1日で何回、利用可能なのかという視点でとらえ直してみます。
結論から言えば、黄色の下水道直結型トイレは1日2,400回、青の組立トイレは1日480回です。この計算は中央防災会議の基準に準拠したもので、まずマンホールトイレ1基の1時間あたりの最大供給可能回数は30回とされています。これは、どうしてもトイレって、次の人との交代も含めて、だいたい一人1回2分くらいかかるので、1時間で30回が限度ですねとされているんです。
また多くの方は、寝ている時よりも起きている時に集中的にトイレに行きたくなるもので、国の考え方では避難者は1日16時間起きているとされています。ですから、1時間当たり30回×16時間で、下水道直結型トイレは5基あるので×5、組立トイレは男女ともに使えるタイプは1基ですので、×1をして1日の使用可能回数が求まりました。
そして、緑色、簡易トイレは、し尿をためる収納袋が各避難所には800袋しかありませんから、1日上限800回。これらを足し合わせると、地域避難所に保管されているトイレだけでは、1日3,680回分しか処理できないという計算になります。実際はここに男性小用便器2つも加わるので、それは考慮するとしても、やはりキャパの不足が心配されます。
さらにもう一つ厳しいシナリオがあります。東京都の想定では、断水地域の被災者は、発災後初日は、なんと誰も避難しないだろうとしているんです。
この理由としては、どんなご家庭でも何かしら飲み物があるので初日は自宅で乗り切れるでしょう、という考えです。正直、全てのご家庭で初日分の飲料があるかどうか、またあったとして避難しないかどうかと考えると、この時点でかなり無理な想定だと思います。
さらに、もし仮に、断水地域の被災者の皆さんが、初日は全員自宅にとどまったとしましょう。それでも、そのような場合であっても、トイレだけは別です。
2023年に一般社団法人日本トイレ協会が行った調査によると、災害用トイレの家庭での備蓄率は全国平均で22.2%にとどまります。
⼀般社団法⼈⽇本トイレ協会「災害トイレの備蓄に関するアンケート調査230810速報版」より
つまり在宅避難者のおよそ8割は自宅のトイレが使えない状況で、なおかつ災害用トイレも備蓄していないんです。するとどうするか。目黒区は自宅から徒歩で気軽に行ける距離に避難所が点在していますから、避難はしないけれど、トイレだけは避難所まで借りに行くという行動をとると考えるのが自然です。
つまり、ここまでは避難生活を送る1,022人分のトイレをさばけるか否かを考えてきましたが、トイレに関しては、避難所にいない多くの在宅避難者の事も考えないといけない、という事なんです。そうすると、1日に求められる避難所トイレの処理能力は5,000回分ではとても足りません。
最後にもう一つ追い打ちをかけるのが、2~3か所の下水道が使えない避難所です。
ここは下水道直結型のトイレも使用できません。先ほどの表でいえば、頼みの綱の黄色の2,400回分がまるまる使えなくなるわけで、そうなるともう今の体制では、初日から、避難所に糞尿があふれかえる状況が目に浮かびます。
こうしたことを踏まえると、避難所のトイレ体制の充実は急務です。方法は色々考えられ、組立トイレや簡易トイレの追加配備ですとか、地域避難所施設の建て替えの際に下水道直結型トイレを今の5基からもっと増やす、あるいは上下水道に被害が出るであろう十数か所の避難所に対して、初日のうちに、備蓄倉庫ないし水道が使える地域の他の避難所からトイレを輸送できるルール・体制の整備など、ハード・ソフト両面から避難所トイレ整備を早急に進めるべきです。
このようなことを、議場で提案しました。
平時にトイレを収納するスペースの確保、また、各家庭での簡易トイレの備蓄と啓発などとあわせて、被災者の健康が維持できる避難所のトイレの計画について、検討してまいります。
お役所言葉で“割と前向き”を示す“検討”というワードが出ました。早急に進めていただくべく、これからも要望をしていきますが、一点、新たな今回の区の回答で新たな発見もありました。それは、答弁の次の箇所。
区では下水道局から提示のあった道路上へのマンホールトイレ設置可能人孔217か所のうち、区が現地調査を行い、地域避難所の周辺で道路状況・交通状況を踏まえ、トイレの設置・使用に問題がないと判断した39か所を選定し、災害時には必要に応じて使用することを想定しています。
なんと一般の道路上のマンホールを開けて、そこをトイレとして使用できるようにするというのです。ただ、この事実は区役所のみが知っていて、避難所運営に携わる地域の皆さんには知らせていないとのこと(私も知らなかった!!)で、また、校庭のマンホールトイレなら、近くのプールなどから水をポンプで引っ張ってこれますが、道路上となると水をどこから持ってきてどうやって流すのかなど、実際に使えるのか?と考えれば相当謎です。
避難所のトイレ問題については、他の問題も目に付きましたので、もう一回、スピンオフとしてブログで取り上げたいと思います。いったんここまで!
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