2023/12/12
こんにちは。30歳の目黒区議会議員、かいでん和弘です。
今回は、船入場調節池(ふないりば-ちょうせつち)について。目黒川があふれそうなときに水をためるための巨大な地下プールで、「地下神殿」とも言われたりする場所のひとつです。一般の方が入れる機会はごく限られています(※)ので、どんな場所かレポートしたいと思います。
(※)5月の「めぐろ水防フェスタ」では一般の方も行ける見学ツアーが行われました。「めぐろ水防フェスタ」については、過去ブログをご覧ください。
調節池について話す前に、目黒川について整理しておきます。皆さん、目黒川の水がどこから来るか、ご存じですか?
東京都発行『目黒川流域河川整備計画』より
目黒川の源流は三鷹市と世田谷区の境くらいから始まる烏山川。ここに北沢川と蛇崩川が合流して目黒川になっています。上の地図で色付けされているエリアから雨を集めていて、流域面積のうちの約6割は世田谷区が占めています。
つまり、「目黒川が溢れないか心配だな」と雨雲レーダーを見るとき、目黒区の上を雨雲が通過していないからって安心してはいけません。目黒川の水の多くは世田谷区に降った雨ですから、ぜひ今度からは世田谷区内の雨の降り方を見てみてください。
なお、目黒川の水源がどこなのかということについては、こんな説もあります笑
なぜわざわざ新宿から下水処理水を引いてきたかというと、その水の方がきれいだからです。東京都の「清流復活事業」という取り組みで、実際に中目黒駅よりも上流の流れはかなり透明になっていますし、このおかげで、今の目黒川は魚やシギが集まる川に戻ってきました。
さて、その目黒川には、船入場と荏原の2か所の調節池があります。
東京都発行『目黒川流域河川整備計画』より
荏原調節池は船入場調節池の3.6倍の容積を誇りますが、もっと下流の品川区にある(東急目黒線の車窓から見えます)ので、目黒区の皆さんが恩恵を受けるのは船入場だけです。中目黒駅徒歩5分、旧・区立川の資料館のとなりにあります。
東京都建設局「船入場調節池(目黒川)」より
船入場調節池は、目黒川の水位が上がった時に、55,000㎥、25mプールに換算して110杯分くらいの水を取り込んで、溢水(いっすい・水があふれること)を防ぐ施設で(長さ108m、幅平均26.8m、深さ25.8m)、池と言っていますが、普段は水をためることなくカラにしています(当たり前ですね)。
東京都発行『目黒川流域河川整備計画』より
その取水口は、船入場広場のあたりから見ることができます(写真は上流側→下流側に向けて撮影)。取水口は2か所あって、下流側の取水口はちょうどカーブの位置にあるので、水を効率よく取り込むことができます。
さぁ入っていきましょう。(ちなみに潜入と言っていますが、正当な手続きを踏んでいます。念のため。)
入ってすぐ、機械室があります(撮影NG)。ここには2台のモニターが置かれていて、川や調節池の水位の状況を確認したり、ポンプや換気用ファンの操作ができますが、同じシステムが品川区役所内の事務室にもあるため、基本的に無人になっています。災害時にも、品川区役所から遠隔でチェックしているんですね。
さて、機械室の奥へ進みます。地下への階段、ワクワクしますね。
入ってしばらくは、調節池の上部の通路を歩きます。
すると、通路脇に取水口が見えてきました。
奥の光は川面です。一列に並んでいる黒いゴムはハトよけのために設置されたもので、風が吹いたら写真のようにひらひらしていました。ただ実際これがあってもハトは普通に入ってきているらしく、今回訪れたときも、反響でいつよりも美声なハトの声が聞こえました(笑)。
ここに水が入ってくるとこんな感じになります。
ちなみにこのあたりから下を見下ろしても、暗くてよく見えません。
もっと深くまで行ってみましょう。ビル7階分くらいの階段を下りていきます。
底に到着しました。上を見上げるとこんな感じ。天井から20mほど下にいますが、天井の一部に天窓が付いているので思ったよりは明るいです。
今度は水平に100m先を見てみるとこんな感じ。5~6mおきの柱が神殿っぽさを演出しています。
上の写真のように、たまった水を排出するため、真ん中に溝が掘ってあります。全体的に溝へ向けて緩やかな傾斜があり、さらに写真の奥から手前に向けても若干低くなっています。そして低くなった先にあるのが……
2台のポンプ。1台は水、もう一台は汚泥用で、水は目黒川の水位が下がった後に川へ放出、汚泥は専門業者が回収に来ます。
当日配布パンフレット『目黒川船入場調節池』より
こういう設備は整っていますが、たまった水や汚泥を掻き出すのは、最後は人の手によります。特に“汚泥”が大変なんです。
東京都では、ほぼ全域で「合流式下水道」が採用されていて、この方式の場合、大雨時には雨水も汚水も一緒になって川へ放出されます。つまりこの調節池にたまる水は、雨水だけでなく、台所やトイレの水など、生活排水(下水)も全て混ざったかなり汚い水だという訳です。
「合流式下水道」については以前解説したブログをご覧ください。
それを人の手で掻き出していくことになるので、強烈な臭いにやられないよう、巨大な換気用のファンも設置されています(写真は換気用のダクトの一部。人が数人は入れそうな、相当大きな管です。)。
そして、取水口から取り込んだ水を下から溜める際、滝のように自由落下させてしまうと、すぐにコンクリートがえぐれてダメになってしまいます。そこで、船入場調節池では、水を滑り台のようなスロープで誘導する作りになっています。水は下の写真の矢印のようなところから下っていき、
一番下へと行きつきます(下の写真はスロープを見上げたもの。ディズニーランドのアトラクションみたい)。
その先には分厚いコンクリートの障壁が設置されていて、直接壁が削られるのを防いでいます(ライトで照らされている障壁の奥に、調節池の壁があります)。
このように、設備を傷めないように考えて設計されていますが、5年に1回は修繕が必要なのだそうです。確かに、ところどころ天井から欠落したコンクリートの細かな破片が床に落ちていたり、コンクリートが鍾乳石のように固まったりしていました。
では、この調節池ができて何か変わったのでしょうか?――結論から言えば、大きく変わりました。
もともと目黒川は水害の多い川だったといいます。例えば、1981年7月の集中豪雨で青葉台の緑橋付近が氾濫し、2,000棟以上が浸水しています。
当日配布パンフレット『目黒川船入場調節池』より
その翌年、1982年には台風18号でまたもや氾濫。当時の上目黒・日の出橋付近はご覧の状況でした。
当日配布パンフレット『目黒川船入場調節池』より
さらに、1989年にも集中豪雨で氾濫。目黒区内ではありませんが、五反田駅の近辺で800棟以上が水没しました。
当日配布パンフレット『目黒川船入場調節池』より
こんな大雨に弱い川でしたが、1991年に船入場、2002年に荏原調節池が完成して以来、目黒川は一度も氾濫していません。特に近年、調節池以外にも色々な部分で、雨水がいっぺんに川へ流入しないよう、対策が設けられているので、そもそも調節池をあまり使用することなく済むようにもなってきています。
当日配布資料より
(表の補足1)
2つの調節池完成後も浸水家屋が数棟~数百棟ある年がありますが、これは川の氾濫ではなく、マンホールから水があふれる内水氾濫によるものです。
(表の補足2)
平成3年から平成11年にかけて、船入場の流入量が5万5千㎥、つまり満杯になっている年があります。これは、まだ荏原調節池が完成していない時期に、下流の品川区で氾濫が起こらないよう、現在よりも取水口を広くして、水が入りやすい構造にしていたためです。
その後、下の写真のように白いカバーを付けて、水が入る量を制限しています。表を見ても、平成12年以降は1回も満杯になっていませんよね。まぁ確かに、1度入ってしまったら排出が大変ですから、氾濫の危険性が高くないのにわざわざ入れる必要はないのです。
以上が、調節池のお話でした。ただ結局、調節池の恩恵を受けられるのは、調節池よりも下流の地域だけです。青葉台など中目黒駅よりも上流の方で川が溢れない対策は別途考えなければいけません。
そしてそれに関してはすでに、
①川沿いの歩道を水が染み込みやすい(=ためやすい)舗装にする
②菅刈公園~東京音楽大学の地下に直径4mの管を埋め込んで、25mプール18杯くらいの水を一時的にためておけるようにする
③下水道にも調節池みたいな構造を設けて、汚水を川に流す前にためておくようにする
などの対策が行われていますし、
今後(時期未定ですが10年以上先)は目黒川の上流3河川にも調節池を作る計画があります(下図の赤丸で囲まれた部分)。ただし、これら3つは、道路の下に埋め込む形になるので多額の費用が必要で、穴を掘るためのシールドを1台作るだけで、船入場調節池全体が作れるくらいの規模になるのだそうです。
(建設予定)
北沢川調節池 13万2,000㎥
烏山川調節池 28万3,000㎥
蛇崩川調節池 5万7,000㎥
東京都発行『目黒川流域河川整備計画』より
本ブログの最後に、これらの対策のなかから1つ、目黒川の河床整備工事について紹介します。
現在、目黒川の河床を掘り下げる工事が行われています。
もともと目黒川の底には、河床ブロックが敷き詰められていたのですが、それを一度撤去し、代わりに、0.6m下げた位置に、敷きなおしています。下の写真でいうと、右のショベルカーがいる辺りは、全面にブロックが敷かれていますが、左端は、中央にだけブロックが敷かれていて、なおかつ右よりも一段低くなっている(作業員さんの少し左でスロープになっている)ことがお分かりいただけるでしょうか。この作業で、より多くの水を海に流すことができるようになります。
私も特別に下まで降りて見せて頂きました。川の水をせき止めてポンプでくみ上げ、脇の水路で工事箇所を通過させています。
この工事、あと10年くらいかけて、中目黒駅~大橋ジャンクションまで行っていくことになっています。目黒川が氾濫しないように、こうした様々な対策が取られているんですね。
今回のブログはここまで。ここまでお読みいただき、ありがとうございました。調節池の底に住んでいたサワガニさんの写真でお別れです。
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