2024/5/17

5月14日の当別町議会第1回臨時会に提案された、社会福祉法人当別長生会への補助金増額9,700万円を含む一般会計補正予算に、修正案を出したうえで反対しました。町長提案に反対したのは初めてです。この件の経緯や反対理由をご説明します。
社会福祉法人当別長生会は、特別養護老人ホームや養護老人ホームを運営しています。
養護老人ホームはもともと町営でしたが、2010年(平成22年)4月1日に運営が引き継がれました(民営化)。
民営化の条件として、老朽化していた養護老人ホームの建て替えを社会福祉法人が行うこととされ、2014(平成26)年度に新築されました。
養護老人ホームは恒常的に赤字が続いていて、特別養護老人ホームの黒字で補填することで経営を続けてきました。
近年は特別養護老人ホームでも赤字が発生し、2018年度以降は法人全体で赤字が続いてきました。
2022年度末には、現金預金が808万円、定期預金(財政運営積立預金)が0円になるなど資金流出が続いていました。
法人の要請で、2023年10月、2024年2月に町と協議が行われました。
当別長生会の経営状態を調べてみました。社会福祉法人の決算情報は独立行政法人福祉医療機構のWEBサイトに公開されています。2016年度から2022年度までの現況報告書と計算書類(決算情報)が掲載されているほか、役員等名簿や報酬等の支給の基準も公開されています。
社会福祉法人の決算は、事業区分、拠点区分などいくつかの集計方法があります。以下の集計は、2016年度~2022年度の拠点区分資金収支計算書から抜粋しました。
事業活動収支:事業活動による収支
施設整備収支:施設の建設や修繕のほか、施設整備のための借入金の返済も含む
養護老人ホーム、特別養護老人ホームそれぞれの状況を把握できるように、各拠点の事業活動収支と施設整備収支を取り出しています。実際には、これに加えてその他の活動による収支というものがあります。
その他の活動による収支:黒字拠点から赤字拠点への資金移動や積立金など
養護老人ホームと特別養護老人ホーム(2拠点)それぞれの2016年度~2022年度の収支をグラフしました。オレンジ色の棒グラフが、事業活動収支+施設整備収支の合計額です。町から移管した養護老人ホームは恒常的に赤字が続いています。特別養護老人ホームは、当別長寿園(多床室)は黒字が続いています。長寿の郷(ユニット型)は2019年度以降、赤字の年度が多くなっています。
2015年度~2022年度までの8年間の法人全体の収支は以下の通りです。青色の折れ線が単年度の収支、赤色の棒グラフが収支の累計です。2018年度以降は法人全体で赤字が続いています。
この結果、法人の現金預金と定期預金も減少が続いています。
社会福祉法人の現況報告書・決算書など(WAMnet)
5月14日11時からの産業厚生常任委員会に提案された福祉部作成の資料を基に要点をご紹介します。全文は下に掲載するPDFfileの9ページ目をご覧ください。
町から運営を移讓する形で養護老人ホームを運営してきた経過及び令和8年度までに事業転換を行う方針が法人から示されたことを踏まえ、一定の条件のもと支援を行い、現在、施設(養護・特養)で暮らしている高齢者の生活確保と経営の基盤強化を速やかに図る必要があるため。
運営費補助…300万円/年。平成26年度から令和15年度(新養護老人ホーム建築の際に発生する借入金の利息相当分を補助)※令和6年度までに3,300万円を支援済。
町有財産の無償讓渡…土地(旧建物含む)、備品、公用車など
ここでは、修正案の提案に至った私の考え方を説明します。なお、法令等の根拠がある部分は根拠法等を明示します。また、私の責任よる解釈であって町とは見解の相違があります。
町が補助金を交付する場合には、以下の通り客観的に公益上必要であると認められなければいけません。
町が行う助成(補助)は、公益上必要がなければならない。(地方自治法第232条の2)
公益上必要があるか否かは、当該団体の長及び議会が個々の事例に即して認定するが、これは全くの自由裁量行為ではない。(行政実例昭和28年6月29日)
そのため客観的に公益上必要であると認められなければならない。(行政実例昭和28年6月29日)
公益上の必要性をどのように判断するかは確立した基準はありません。市町村によってはガイドラインを設けているところもありますが、当別町では明文化されたガイドラインは確認できませんでした。そこで、静岡県裾野市の「補助金に関するガイドライン第4版」を参考に検討してみました。
本助成の根拠規定は、当別町社会福祉法人の助成に関する条例(以下、「助成条例」という。)である。
助成条例は、社会福祉法人の運営費に対する助成ではなく、社会福祉法人が実施する特定の事業に対する助成を定めたものと解される。
なぜなら、助成条例第4条で申請にあたって「助成を受けようとする事業の計画書及びこれに伴う収支予算書」の提出が求められている。
これまで当該社会福祉法人へ行ってきた年間300万円の助成についても、予算書上「養護老人ホーム運営費」と記載されているものの、当該社会福祉法人の決算上、養護老人ホームに計上されており、養護老人ホーム事業への助成であることを示している。
提案理由の説明において、養護老人ホームの収支不足に対するものと説明されていることから、助成対象は養護老人ホームであると考えられる。
事業費に対する助成であれば、助成の対象となる事業が特定されその具体的な計画と収支予算が確定している必要がある。
助成条例第4条の計画等は申請の時点で必要なものであるが、原案は個別の判断として補正予算を上程して助成しようとするものである。よって、補正予算の審議をするにあたって計画等が示されていなければ、本補正予算の妥当性を判断することができない。
養護老人ホーム事業に対する助成であれば、養護老人ホームに関する経費で令和6年度において支出される経費に対する助成でなければならない。
補助割合については、条例上規定はないものの団体に対する補助金交付規則第5条から類推すれば、第3号の町の行政の推進上奨励すべき事務又は事業を参考に補助対象経費の10分の5以内。これは原案の提案理由中の算定式にも合致する。
公表されている当該社会福祉法人の直近の決算は令和4年度分である。社会福祉法人の会計においては、事業区分、拠点区分等複数の計算が存在する。令和4年度の拠点区分資金収支計算書によれば、養護老人ホーム拠点区分は事業活動収支が900万円の赤字。これに施設整備等資金収支を加えれば2,196万円の赤字。令和4年度の事業区分事業活動内訳計算書によれば、経常増減差額が1,938万円の赤字。いずれにせよ養護老人ホームの赤字は概ね2,000万円程度である。(福祉医療機構に掲載されている当該法人の決算情報)
仮に当該事業の赤字分全額を補助対象経費としたとしても、その50%は1,000万円程度であり、原案の予算額9,700万円とは大きく乖離する。
来年度以降の経費に充当されるのであれば、単年度主義に反しないか。また、実質的に基本財産への出資にあたり、憲法89条に反しないか。
補助金を周年事業として積立てることについて(平成25年9月5日瑞穂市企画部企画財政課作成)
修正版は、社会福祉法人への補助金9,700万円と、その財源である財政調整基金繰入金9,700万円の双方を削除するものです。
修正案はこちらからダウンロードできます。
議案第1号 令和6年度当別町一般会計補正予算(第1号)に対する修正案の提案理由をご説明いたします。
本修正案は、議案第1号 令和6年度当別町一般会計補正予算(第1号)、第1条第1項中「3億2008万3千円」を「2億2308万3千円」に、「128億7062万9千円」を「127億7362万9千円」に改めるとともに、第1表歳入歳出予算補正の表の一部を改めようとするものです。その詳細は、歳入歳出補正予算事項別明細書に記載のとおり、歳出3款民生費、1項社会福祉費、2目老人福祉費18節負wx担金補助及び交付金に計上されている、養護老人ホーム運営費にかかる補助金の増額9700万円を削除し、その財源もあわせ、歳入歳出とも9700万円を減額しようとするものです。
本補助金の増額9,700万円を削除しようとする理由は次の3点です。
これまでの質疑を通して、本増額分補助金が客観的に公益上必要であると確認することができなかったこと。
本増額分補助金の対象経費の算定にあたり令和6年度に支出されない経費を含めていることは、当別町社会福祉法人の助成に関する条例および予算会計年度独立の原則に照らして適切ではないこと。
現在施設で暮らしている高齢者や従業員の方々の生活確保のためのとりうる手段は本増額分補助金以外にも存在すること。
以下、この3点について説明いたしますが、その前に一点申し上げます。現在、本補助金の対象となる社会福祉法人が運営している施設で生活されている方々の安定した生活の確保が重要である点では、私は町と全く同じです。また、この点はこの議場にいらっしゃる全ての議員の方が全く同じ認識を持たれているものと考えています。そして、今回の一連の経緯については、福祉部を中心とした職員の方々は今年の2月頃から、真剣な努力を積み重ねてこられました。また4月中旬にこの経緯が議会側に明らかになってからの1か月間、議員間でも様々な議論がありました。全ての関係者の方々が、より良い解決策を得るべく努力されてきたことに、深く敬意を表します。
ただ、本当に残念なことは、これほど重要な案件を、なぜこのような短期間で議論せざるを得なくなってしまったのかということです。町は機会と一定の責任があったにもかかわらずこの状況を把握することができず、私自身、議員となってから、毎年の予算決算で300万円の運営費補助金を目にしていましたが、それほど注意をむけていませんでした。
一方、当該社会福祉法人は、その一部の事業を過去に町から移管されたとはいえ、町とは別個の法人です。日々その状況を把握している経営陣はより早く時期からこの事態を認識し、施設で生活されている方々の安定した生活の確保のために、そして日々懸命に働かれている従業員の方々のために、ありとあらゆる手をつくされてしかるべきところ、結果として、このタイミングで町による公的な支援を求めることになりました。法人としてその責任をしっかりと認識し、施設で生活されている方々や従業員の方々の安定した生活の確保のために、適切な執行体制のもと必要な判断を速やかにされることを強く希望します。
これまでの質疑を通して、本増額分補助金が客観的に公益上必要であると確認することができなかったこと
では、本修正案の提案理由1点目をご説明いたします。これまでの質疑を通して、残念ながら本増額分補助金が客観的に公益上必要であると確認することができませんでした。
普通地方公共団体は、その公益上必要がある場合においては、寄附又は補助をすることができますが、これは全くの自由裁量行為ではなく、客観的に公益上必要であると認められなければならないとされています。公益上の必要性については、必要性、妥当性、有効性、公平性など様々な観点があります。
運営する施設の特殊性からくる一定程度の補助対象の適切性や、現在入居されている方々の暮らしを守るという必要性は一定程度理解します。しかし、補助金以外の選択肢は全く検討されておらず、事業内容や対象経費の妥当性や他事業者との公平性など、懸念点がおおくあり、客観的に公益上必要と確認することはできませんでした。
特に、本増額補助金について1回限りであるとの説明が行われていますが、入居されている方々の暮らしを守るという観点からは、今後も同様の必要性が生じることは十分に考えられます。しかし、今回は、補助をする必要性があり、今後においては補助をする必要性は発生しないという、合理的な根拠はありません。入居されている方々の暮らしを守るという必要性を重視するのであれば、今後も同様の補助をする可能性があることを認めるのが筋です。
本増額分補助金の対象経費の算定にあたり令和6年度に支出されない経費を含めていることは、当別町社会福祉法人の助成に関する条例および予算会計年度独立の原則に照らして適切ではないこと
次に、理由の2点目です。本増額分補助金の対象経費の算定にあたり令和6年度に支出されない経費を含めていることは、当別町社会福祉法人の助成に関する条例および予算会計年度独立の原則に照らして適切ではないと考えます。
町が行う助成金は、単年度ごとに支出されるもので令和6年度の補助金は令和6年度中の事業期間内に支出される経費に対して補助が行われることが原則です。これは、公会計における会計年度独立の原則によるものです。仮に補助金として支出するなら、今年度の養護老人ホーム事業の損失分を補填するなど、公会計の原理原則に基づいた構成で予算を提案すべきであると考えます。複数年にわたっての支出の枠を確保する必要があるのなら、債務負担行為を利用することができます。原理原則により適合した方法をとりえたにも関わらず、あえてこのような提案をされたことが残念でなりません。
なお、常任委員会の説明では、過去の損失分とこれから3年間で発生するであろう損失はあくまで積算根拠であり、運営費として当該法人で支出されている限り、法人において次年度以降にむけた積立としても差し支えないとの説明でありました。そうすると、運営費補助の対象となるのは養護老人ホームの今後3年間の収支不足という理解になると考えられます。しかし、当該事業は収入がある事業であり、今後3年間の収支不足は町の試算で7380万円ですので、9700万円とは依然乖離しています。
現在施設で暮らしている高齢者の生活確保のためのとりうる手段は本増額分補助金以外にも存在すること。
理由の3点目は、現在施設で暮らしている高齢者の生活確保のためのとりうる手段は本増額分補助金以外にも存在することです。現在施設で暮らしている高齢者の生活確保が、今回の補助の最大の目的との説明をが繰り返しありました。その点には全く同意であります。しかし、それと、現在の経営形態の維持とは同じことではありません。法人への補助だけでなく、運営形態への変更など様々な方法がありえます。全国には法的処理をしたうえで、事業は継続し、入居者の生活をきちんと確保している事例もあります。しかし、これらの手法についてまったく検討されていません。
施設で暮らしている高齢者の生活確保が最大の目的なのであれば、これまで町は何をしてきたのかという指摘もせざるを得ません。。当該養護老人ホームの民営化にあたって、平成21年12月議会では、福祉部から「老人ホーム設置の目的の実現や法人の事業及び会計の適切な運営について今後も引き続き行政として役割を果たしていく」「社会福祉法の58条に基づいて、道と連携をとりながら適正な運営を確保できるように、今まで以上に北海道と連携をとりながらこういう部分についての助言だとか監督権を行使していきたい」と答弁していたが、実際に行われた来たことは、毎年300万円の補助金を支出し、それが養護老人ホーム事業に充当されていることを確認するのみで、法人の事業及び会計の適切な運営について十分な役割を果たしてきませんでした。
結果論かもしれませんが、当時の議会議論を踏まえれば、毎年提出される法人の決算書にきちんと目を通し、法人とコミュニケーションをとっているべきであったのではないでしょうか。少なくとも令和4年度決算書をしっかりと見ていれば、端緒を掴むことができていたのではないでしょうか。仮にそれができなかったとしても、遅くとも今年2月の法人との協議を経て、同じ認識建ったとしても、そこから新たな経営形態を模索するなど、町としての主体的な動きはなく、予算について充実した審議時間を確保できる3月定例会でも提案や報告はなく、この5月14日という日になって臨時議会で提案し、そこで、現在施設で暮らしている高齢者の生活確保のためには、今この予算を通す必要があるとの説明をされています。ここからは、本当に現在施設で暮らしている高齢者の生活確保を第一に考える姿勢を伺うことは、私はできませんでした。
また、繰り返しになりますが、今回は補助をする必要性があり、今後においては補助をする必要性は発生しないという、合理的な根拠はありません。入居されている方々の暮らしを守るという必要性を重視するのであれば、今後も同様の補助をする可能性があることを認めるべきです。今回限りという点にこだわるのであれば、入居されている方々の暮らしを守ることを本当に重視されているのか逆に懸念を感じます。
現在施設で暮らしている高齢者の生活の確保のためには、その内容、金額を精査し再提出することや、事業を継続しつつ、新たな運営主体への速やかな移譲を含めた抜本的な対策をとることなどとりうる方策はあり、その時間はまだ残されています。
以上の理由から、議案第1号中社会福祉法人への補助金分9,700万円を減額する修正案を提案させていただきました。皆様の慎重なるご審議とご賛同をお願い申し上げます。
採決に先立って、修正案・原案への賛否について計6名の議員による討論が行われました。
原案賛成・修正案反対 海野議員・佐々木議員・秋場議員
原案反対・修正案賛成 角田議員・芳形議員・櫻井議員
高谷議長と島田議員は、社会福祉法人当別長生会の理事のため議案審議に加わりませんでした。これに伴い議長を務めた稲村副議長も採決に加わっていません。
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