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【藪原太郎/武蔵野市】国旗損壊罪とは何か|表現の自由と国家の尊厳を考える

2025/10/22

一般参賀 令和7年1月2日一般参賀 令和7年1月2日

国旗損壊罪を考える——敬意と自由のあいだで

自民党と日本維新の会が、2026年の通常国会で「国旗損壊罪」を新設する方針を固めた。
「外国国章損壊罪だけが存在するのは不均衡だ」との理由である。
しかし、法制度の整合性を唱える前に、この罪が何を守り、何を制限するのかを冷静に考える必要がある。

外国国章損壊罪の実態

刑法92条は、外国に対して侮辱を加える目的でその国の国旗や国章を損壊した者を処罰できると定めている。
ただし、これは親告罪であり、実際に適用された例はきわめて少ない。
外交上の儀礼を維持するための、形式的な条項に近い。
それを根拠に「自国旗にも同様の保護を」と論じるのは、やや飛躍がある。

法が守るべきは「象徴」か、それとも「個人」か

国旗損壊罪が導入されれば、日の丸を傷つける行為が「国家への侮辱」として処罰の対象になると考えられている。
だが、ここで問うべきは「誰の権利が侵害されたのか」という点だ。
刑法は本来、具体的な被害を救済するための制度である。
国家や象徴そのものに「被害」を認定するのは、近代刑法の原則から離れる。

仮に、国旗損壊罪が外国国章損壊罪と同じく親告罪として設けられた場合、
日本政府が「被害者」となり、自国民を告訴する構造になる。
国家が自らの尊厳を守るために国民を刑事告訴するという関係は、刑事法の基本原則から見ても異質である。
本来、刑罰は国家が国民を守るために行使するものであり、国家が自らの感情を守るために国民を罰するものではない。
この一点だけを取っても、慎重な検討が求められる。

国旗への敬意は否定されるべきではない。
しかし、それを刑罰によって強制するのは、敬意ではなく服従である。
象徴を守ることと、思想を縛ることは紙一重だ。

「侮辱目的」条項が再び入るなら

かつて2012年に自民党が提出した旧法案では、「日本国に対して侮辱を加える目的で国旗を損壊・除去・汚損した者」を処罰対象としていた。
今回の連立合意で提出予定の法案の文言はまだ明らかになっていないが、同様の構成になる可能性がある。
仮に再び「侮辱目的」という要件が盛り込まれるなら、その解釈のあいまいさが大きな論点になるだろう。

抗議デモで国旗を逆さに掲げれば侮辱か。
芸術作品で国旗を加工すれば侮辱か。
判断の基準があいまいなままでは、表現の自由を萎縮させる結果になる。
表現とは文脈によって意味が変わる。
ある行為が「不快」に映っても、それを「犯罪」と呼ぶかどうかは別の問題である。
法が感情を基準に運用されるようになれば、理性の領域は急速に狭まる。

外国国章損壊罪も、見直しの時期にある

私は、外国国章損壊罪そのものも廃止を検討すべきだと思う。
外交儀礼は外交で担保すればよい。
個人の行為に刑罰を科してまで「国家間の関係」を守る必要はない。
国家の尊厳を個人の自由の上に置く構造を、ここで見直すべきである。

さらには、いま「不均衡」を理由に国旗損壊罪の創設を正当化する議論があるが、外国国章損壊罪を廃止すれば、その不均衡そのものが解消される。
新たな罪を増やすのではなく、不要な罪を減らす方向で整合性を取るべきだ。

「国旗を守る法」が実際に守るのは国旗ではなく、国家の感情だ。
そして感情を法で扱い始めると、どんな表現も「侮辱」とされうる。
それは表現の自由を損なうだけでなく、国家自身の成熟を損なう。

敬意は自由の中から生まれる

私は祝日には国旗を掲揚し、一般参賀では皇居で日の丸を振る。
それでも、この法案には慎重であるべきだと思う。
なぜなら、敬意とは自発的な行為であり、命令や罰からは生まれないからだ。
自由の中にこそ、真の敬意が宿る。

国旗を敬う自由と、国旗を批判的に扱う自由。
どちらも民主主義に不可欠な要素である。
どちらかを失えば、もう一方も失われる。

結論:刑罰よりも成熟を

国旗損壊罪の新設は、社会の成熟を示すどころか、その不安を映し出している。
侮辱に耐えられない国家は、批判にも耐えられない。
法は感情の代弁ではなく、感情を制御する仕組みであるべきだ。

国旗を守る法律をつくる前に、国旗を掲げる自由と異論を唱える自由を、ともに尊重する社会を育てたい。
それが、この国の尊厳を守る最も確かな方法だと、私は考える。

関連リンク
外国国章損壊罪
表現の自由

 

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