2020/10/28
10月26日臨時国会開会に伴い、菅義偉総理大臣より所信表明演説がありました。
順を追って、簡単に感想を述べたいと思います。
1.新型コロナウィルス対策と経済の両立
国難として位置づけ、責任を持って対応する決意表明は評価します。安倍前首相が退任記者会見で明示した「健康と経済の両立」を明確にしています。(実はその時点まで政府としての方向性は明示されていなかったと思います。)
経済対策について、アベノミクスの継承、持続化給付金、無利子無担保融資、GO TO キャンペーンについて言及していますが、消費税引き下げなどの消費拡大策や追加的な経済対策については具体的には触れていません。当面の対策には10兆円の予備費の残りを使いながら、状況を見つつ、第3次補正予算と来年度本予算の骨子づくりの中で立案していくという考えのようですが、物足りません。
2.デジタル社会の実現、サプライチェーン
デジタル庁創設によるデジタル化社会の推進については、後れを取っている状況から脱却するために強力に進めてほしいと思います。霞が関の縦割り行政を国民志向に改革するには相当な力量が必要です。担当大臣に任せ切りにしないで総理直轄くらいの勢いで進めてほしいところです。デジタル・デバイド対策も必要です。
3.グリーン社会の実現
2050年にカーボンニュートラル、脱炭素社会・グリーン社会を実現する。上記二と併せてグリーン・ニューディール政策とも呼ばれる理想的国家戦略でぜひ進めていただきたいと思います。
脱炭素社会実現の道程が、省エネ・再生エネ・(安全最優先の)原子力を柱としたエネルギーの安定供給となっています。立憲民主党は「原発ゼロ基本法案」を、国民民主党は「2030年代を目標に原子力エネルギーに依存しない社会の実現」を掲げています。理想実現のための道程が与野党で違います。政策論争が必要です。
4.活力ある地方を創る
地方対策と言えば道路・鉄道・空港・港湾などのインフラ公共事業、工場誘致と言った時代から変わってきました。私たちが作った農業6次産業化法などの成果を検証し、新しい収入源を創出する働きかけを述べてほしかったところです。
最初に出てくる農産品の輸出・インバウンドは民主党政権時代から力を入れてきた基本政策です。言及されている観光・農林水産業を基軸とした地方対策は伝統的な基本政策です。なかなか難しいことではありますが、それに加えた新機軸が欲しいところです。
最低賃金の引き上げは必要ですが、それを環境・農林水産業で実現するためには相当なてこ入れが必要となります。その準備ができているかどうか?
5.新たな人の流れをつくる
都会から地方への人の流れ、海外との人材交流、金融人材受け入れ、女性登用を含めた多様性のある職場つくりと、流れの方向性は従来通りです。
地方銀行再編がどういう理由で、どういうメリット、デメリットがあるのかを明らかにしていく必要があります。
6.安心の社会保障
少子化対策に力を入れていただきたいので、個別の施策の実行をぜひともお願いしたいところです。保育園待機児童ゼロ、ポスト「子育て安心プラン」策定、男性育児休暇取得、不妊治療の保険適用、児童虐待防止、男女共同参画基本計画策定、同一労働同一賃金、障がい者福祉、健康寿命、介護人材・現場などに言及しています。
非効率・不公平是正を目的として、毎年薬価改定、オンライン診療恒久化、高齢者医療の見直しなどの改革も挙げられています。
私は、雇用・子育て・教育・医療・福祉の現場を身近で支える地方(自治体)には、より権限と財源を国から移譲し、地方が主体的にその地域に合った政策の濃淡をとれる工夫をもっと進めるべきと考えていますが、そのレベルでの言及はありませんでした。
7.東日本大震災からの復興、災害対策
福島の復興なくして、東北の復興なし。その通りです。被災者生活再建支援法改正にも触れています。いわゆる国土強靭化については基本的に必要ですが、内容の検証はしっかりしていく必要があります。自然災害を多角的に想定すること、事前調査や個別対策、防災訓練、避難訓練等の実施を的確に行える体制を都道府県・市町村と連携をしっかり連携をとっておくことなどにも期待したいと思います。
8.外交・安全保障
拉致・核・ミサイル問題を解決して北朝鮮との国交正常化はぜひ進めていただきたいですが、日本単独では難しい問題なので、米中露韓国などとの連携が必要です。具体的努力の方向性を明示してもらいたかったところです。
イージス・アショアの代替策・抑止力の強化については、敵基地攻撃能力のことを指していると思われますが、これは憲法に照らして慎重な議論を望みます。(この部分は安倍前総理が退任記者会見で唐突に語っていた部分ですが、菅総理が少し濁しているのはどういうことでしょうか?反発を恐れてでしょうか?)
諸外国との外交スタンスは前政権からの継承ということですね。(確か、総理就任記者会見では北方領土交渉についてはスタンスを変えるような発言だったかと記憶していますが、今回は軽くスルーしましたね。)
国連、安保理、WHO、WTOなどの国際機関の改革を目指すこと。多角的自由貿易体制を維持・強化についても同様です。
「人類がウィルスに勝った証しとして」東京オリンピック・パラリンピックを開催する決意だそうですが、正直言って、なかなか難しいそうな気がしています。ウィルスに対する勝ち負けには言及しない方が良かったのではないでしょうか。そのためにオリンピックがあるわけではないでしょうし。
9.おわりに
憲法改正については安倍政権より消極的な印象です。
「自助・共助・公助」「絆」のくだりは、「まずは全員が自助できるチャンスや環境にあること」が前提の話だと思います。最後にセイフティ・ネットも必要ですが、最初に立ち上がれる土台が必要ではないでしょうか。特に、「自助」の部分に「競争」が入ってくることが多いことを踏まえると、生まれてきた時から格差がある社会にしないことが肝心です。菅総理は意外にやや目線が高いのかなという印象を持ってしまいました。
肝いりの携帯電話料金引き下げについて言及されています。正直言って、これが一番人気をとりそうな気がしてしまいます。「国民のために働く内閣」「改革実現」とのことですが、有言実行、ぜひ、そう頑張っていただきたいと思います。
*日本学術会議の任命人事については触れられていませんでした。菅総理と個別面談した田原総一郎さんが述べられているように、実質的に6人を拒否したのは安倍前首相という推測が出てきたりして、この件はまだまだ尾を引きそうです。
https://blogos.com/article/493529/
【第二百三回国会における菅内閣総理大臣所信表明演説 全文 (官邸HPより)】
https://www.kantei.go.jp/jp/99_suga/statement/2020/1026shoshinhyomei.html
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モリモト カズヨシ/54歳/男
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