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あなたの選挙投稿、消されるかもしれない――消すのは政府ではなく、SNSの運営会社(和田晋司)

2026/10/2

和田 晋司

和田 晋司

あなたが選挙のことをSNSに投稿する。その投稿が、ある日突然消される。

実は、今でも起こり得ることです。そして2027年3月からは、選挙の公正を害する投稿も法律の対象に加わります。

消すのは政府ではありません。X、YouTube、Instagram、TikTokなど、SNSを運営する会社です。

なぜ規制が強まるのか。総務省が今年5月に行ったICTリテラシー実態調査では、ネット上の偽・誤情報に接した人のうち、約半数がそれを正しいと判断し、2割は自分でも拡散していたといいます。偽情報は、信じられ、広がっている。だから法律が動いたのです。

(筆者注※数値は総務省の7月24日付け報道資料および勧告文書、Google LLCとX Corp.の透明性レポート、総務省のICTリテラシー実態調査により、条文は衆議院の法案本文によります。沖縄県知事選の事例は読売新聞オンライン2026年9月10日付け記事、各党協議会の動きは日本経済新聞の報道によります。総務省の見解は、情報流通行政局情報流通振興課情報流通適正化推進室への取材によるものです。)

1 何が変わるのか

公職選挙法(以下「公選法」)と情報流通プラットフォーム対処法(以下「情プラ法」)の改正法が2027年3月1日に施行され、以後の選挙はすべて対象になります。来春の統一地方選挙はその代表格ですが、それまでの補欠選挙や各地の地方選挙も含まれます。

(1)守るべきものに、選挙の公正が加わった

消すことは今も行われています。なぜ法律を変える必要があったのか。違いは、法律が何を守ろうとしているかにあります。

運営会社は自社のルールで大量に消していますが、それとは別に法律に基づく仕組みもあります。こちらは誰かの権利が侵害された場合に動き、本人が申し出てはじめて手続きが始まります。現行法では、申し出がなければ運営会社が動く義務はありません。

改正情プラ法第27条の2第1項は、そこを変えます。法令に違反する情報、虚偽の情報、事実をゆがめた情報など「選挙の公正を害するおそれのある情報」の悪影響を軽減するため、運営会社が必要な措置を講じなければならないと定めました。個別の権利侵害に当たるかを問いません。

本人が申し出なくても運営会社は動く義務を負います。個人の権利を守る仕組みはそのまま残り、そこに選挙の公正という保護法益が加わったわけです。

(2)何をするかは運営会社が決める

対象はGoogleとXだけではありません。LINEヤフー、Meta、TikTokなど国が指定した事業者が対象で、今年8月31日にはpixiv、noteなども加わりました。

もっとも、措置の中身は運営会社の裁量に委ねられ、消すことが義務づけられるわけではありません。与野党は9月24日の協議会で、推奨例9項目を示した合意案を議論しました。収益化への対応、AI生成コンテンツへの対応、信頼できる情報の優先表示、ボットへの対処など。消すことだけが措置ではないのです。

総務省はこの合意案を土台に指針をつくります。指針は附則により施行前でも公表でき、線引きの輪郭は来春より前に見えてくるかもしれません。

そして選挙についても、運営会社は実施状況を公表することになります。行き過ぎて消していないか、逆に放置しすぎていないか。それを判断する材料が、年1回は表に出るわけです。

(3)規定に罰則はない、ただし公表は別

投稿する側にも、新しい規定が置かれました。

改正公選法第142条の5では、生成AIで作った画像や動画にAI利用の表示が義務づけられます。候補者本人が作った場合も対象です。あわせて、選挙運動用の電子メールの送信主体を限っていた規制は廃止されます。

同じく第142条の7第1項は、インターネットを使う者は候補者について虚偽の事項を公にしたり事実をゆがめて公にしたりして選挙の公正を害することがないようにしなければならない、と定めました。

ただし、AI表示義務にも利用者の責務にも罰則はありません。表現の自由への配慮から、そう設計されました。

運営会社の措置義務も同じです。選挙の偽情報に手を打たなくても、罰則が科されることはありません。実効性が問われるのは、この点です。

では、守らなくても構わないのか。そうではありません。選挙の偽情報にどう対応したかも、年1回の公表事項に加わりました(改正情プラ法第28条第5号)。この公表義務に違反すれば勧告、従わなければ命令、命令違反には刑事罰もあります。7月にGoogleとXが勧告を受けたのも、公表義務の違反でした。

措置そのものは罰せられないが、何をしたかを公表しないことは罰せられる。そういう構造です。

2 では、どんな投稿が消されるのか

どこからが対象になるのか。施行前ですから断定はできませんが、各社が今すでに消している類型を見れば見当はつきます。

(1)消される可能性が高いもの

①候補者になりすましたアカウントからの投稿。本人の名前や写真を使ってその候補者を装う行為は、Xが「なりすまし」として現在も消しています。

②「あの候補者は学歴を詐称している」というような、事実でないことを事実として書き込むこと。

③候補者やその支持者に対する、人格を否定するような書き込み。YouTubeは「嫌がらせやネットいじめ」を理由に消す対象としています。

①については、2026年9月の沖縄県知事選で実例がありました。生成AIで作られたとみられる候補者の偽ポスターがXに投稿され、投稿者は批判を受けて自ら消しましたが、拡散した画像は残っています。

(2)対象にならないと考えられるもの

①「この候補者の経済政策には反対だ」という意見

②「あの候補者の外交に関する発言はおかしい」という批判

③「この候補者を支持する」「この政党に投票する」という表明

これらは、事実に反するわけでも、他人を傷つけるわけでもありません。

(3)線引きはどこにあるか

批判や意見は残る。誹謗中傷や虚偽は消される。おおまかにはそうなります。ただ、どこまでが批判でどこからが誹謗中傷かは微妙な場合もあり、具体的な線引きは総務大臣が定める指針によります(改正情プラ法第27条の2第2項)。

3 どう消されるのか

では、どういう段取りで消されるのか。以下は現行法での運用と数字ですが、施行後も基本は変わらないとみられます。

(1)大半は、通報を待たずに消されている

YouTubeの資料によれば、8カ月余りで消された動画は16万件を超えます。その95%以上は、誰の通報もなくシステムが自動で検知して消したものでした。誰かに言われて消すのではなく、運営会社が自ら見つけて消している。それが実態です。

こうした数字は各社が公表しています。情プラ法が義務づけているためです。YouTubeの場合は、Googleの透明性レポートの「法令上の報告」にある「日本の情報流通プラットフォーム対処法に関するYouTubeの透明性レポート」で読めます。

(2)通知が届き、繰り返せばチャンネルごと消される

まず、メールが届きます。何が消されたのか、理由は何か、チャンネルにどう影響するのか、次に何ができるのか。それらが記されています。

初めての違反なら多くは「注意」で済み、講習を受ければ90日で解けます。ただし、その間に繰り返すと「警告」になり、3回目でチャンネルそのものが消されることがあります。悪質な場合は警告なしで停止されることもあります。

(3)コメントが消えても、通知は来ない

見逃せない記述があります。YouTubeは動画やチャンネルについては通知していますが、コメントを消したときには通知していないというのです。資料にも、通知した数は0件とあります。

つまり、候補者の動画に書き込んだコメントが消されても、本人は知らないまま終わる可能性があります。

4 求めても、思い通りにはならない

消された側が戻したいとき、被害を受けた側が消したいとき。どちらの求めも、そのまま通るとは限りません。

(1)異議を申し立てても、戻るのは7件に1件

納得できなければ異議を申し立てられます。YouTubeではこれを「再審査請求」と呼びます。しかし、日本からの請求で元に戻ったのはおよそ7件に1件でした。一度消されると、取り戻すのは簡単ではありません。

(2)「消してほしい」と言っても、簡単には消えない

今度は逆の立場です。事実と違う書き込みが広がり、消してほしいと申し出たらどうなるか。

同じ8カ月で、法律を根拠にした申し出は2450件ありました。しかし実際に消された動画やコメントは289件にとどまります。

「これは名誉毀損だ」と申し出ても、そのまま通るわけではありません。情プラ法が義務づけているのは、期限内に申出者へ結果を通知することと、実績を公表することであって、消すことそのものではないからです。

これは制度の不備というより、意図的な設計です。法律が運営会社に課しているのは判断の手続きであって、判断の中身ではありません。消されにくいのは、他方では表現の自由を守るためでもあるのです。

いずれにせよ、消す側の判断も、消さない側の判断も、運営会社が握っている。これらの数字が示しているのは、そういう構図です。

5 勧告は効いたのか――運営会社の対応と、総務省の評価

(1)GoogleとXは従った

ここまでの数字が分かるようになったのは、実は7月の勧告があったからです。総務省は7月24日、5社に公表資料の不備を指摘し、8月31日までに出し直すよう求めました。未公表項目が特に多かったGoogleとXには、改善計画の提出も求めています。

【関連記事】GoogleとXなどに総務省が初の勧告!2027年統一地方選の「SNS偽情報対策」は本当に機能するのか?(和田晋司)

勧告に強制力はありませんが、従わなければ命令に進み、罰則もあります。しかも総務省は、修正が技術的に困難なら翌年度以降でよいという逃げ道も用意していました。両社はそれを使わず、期限内に直しています。

Googleの直し方は徹底していました。当初の資料には、申し出の件数と実際に消した件数の突き合わせは「システムの構造上できない」とあったのですが、改訂版ではその一文が消え、手作業で集計したとあります。できないと説明していたことを、やってのけたわけです。

Xも更新箇所を赤字で示し、日本語版の資料を新たに用意しました。透明性レポートの「日本IDPA準拠報告書」から読めます。

(2)総務省「すべてが網羅されているとは考えていない」

総務省はこれをどう見ているのか。期限を過ぎても発表がないため、勧告を出した情報流通行政局情報流通振興課情報流通適正化推進室に取材しました。

回答はこうです。すべての公表事項が網羅されているとは考えていない。公表された内容のなかで、クリアできなかった部分が若干残っているのは事実である――。

項目の数だけ見れば、求められたものは埋まっています。しかし内容として基準を満たしていないものが残っている。形式は整ったが実質はまだ、という見方です。どの項目かまで尋ねましたが、教えてもらえませんでした。

とはいえ、追加の勧告を出すほどではないようです。5社は10月30日までに改善状況を報告し、以降も2027年4月30日まで3カ月ごとの報告を求められています。総務省はその中身を精査し、注視していくと説明しています。

そしてもう一つ。この評価の結果を公表する予定はないとのことです。

待っていても発表はありません。公表されるのは運営会社が出す実績までで、それを行政がどう評価したかは表に出ないのです。

結局は、自分で資料を開いて確かめるほかありません。来春、選挙の場面でも同じことになりそうです。


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和田 晋司

和田 晋司

元地方自治体職員。大阪府藤井寺市において、平成25年度から29年度まで選挙管理委員会事務局長を務め、国政選挙・地方選挙の運営および開票実務の中核に携わる。現在は、選挙制度や選挙実務について、実務経験に基づいた解説・執筆を行っている。

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