最後に、まとめです。今回当選した山中氏のSNS活用においては、Twitterアカウント中心に、Instagram、Youtube、Facebook、LINE、全てを一定のクオリティで保ちながら更新し続けていました。特に、他候補者にはなかったメディア活用の特徴を以下にまとめます。
ポイント①地元活動およびメディア運用への着手が早い
ポイント②街頭スケジュールの告知は必ず前日までに行う(画像付き)
ポイント③街頭演説ではなく、街頭コミュニケーションという表現を用いることによって市民との「目線をそろえる」
ポイント④画像とテキストにズレがない=候補者のブランディングを統一する
ポイント⑤政治色を全面に出さずに、硬い・柔らかいコンテンツのバランスを考えて投稿している(メイン垢、サブ垢の使い分け)
ポイント⑥伝えたい情報を絞って、テキストを作成(情報比率を考え、わかりやすさを意識)
ポイント⑦メディア媒体ごとに見せ方を変えている
ポイント⑧自分の言葉でしっかりと語ることができる素材があってこそSNSが生きてくる
神奈川県内では連日のように2000人以上の感染確認が発表されています。市民の関心が「新型コロナ対策」に集まる中で、山中氏は自ら「コロナの専門家」として打ち出しました。今回考察してきたメディア活用の一つ、一つの要素こそが、山中氏を「コロナの専門家」として押し上げる力へと加わり、政府に不安や不満を感じている人たちを、より引きつけたのではないかと、筆者は考えます。
また、他候補者と比較していく上で感じたことは、候補者のアカウント投稿以外でタイムラインが埋め尽くされることによって、本当に発信したいメッセージが見えにくくなる=わかりにくさが生まれる要因につながる可能性があるのではないかというものです。次点の小此木氏に関しては、山中候補に比べて、具体的なメッセージが薄く、発信がわかりにくい印象をうけました。「強い覚悟で横浜市政へ」というキャッチコピーから、なぜ出馬に至ったのか、どのような市政を目指していくのか、など市民を納得させるだけの言語化した発信が埋もれていた、もしくはコンテンツ観点において少なかったのです。従来通りの組織票固めであれば、これまでの発信のやり方(他議員からの応援投稿をRTする、応援弁士のメッセージ動画を並べることなど)でコンテンツは良いのかもしれません。
しかし、(繰り返しになりますが、)今の日本全体において、政府・政治家に対して国民の批判が高まりやすい状態にあります。従来通りの打ち出し方をした結果として、逆効果を招いてしまう可能性が高く、仮にどの政党所属議員であっても、極力政治カラーを抑えるブランディングをとった方が良いのです。なぜならば、二連ポスターや応援弁士のメッセージ動画は、政治や派閥特有のカラーを感じさせやすく、批判や反発をよりうけやすくなる上に、候補者のイメージブランディングに影響を与えやすい傾向にあるからです。今、求められているのは、一刻も早くこの現状を解決してくれる、右でも左でもない、しがらみのない政治家、こういった現状を作り出した政府への不満を受け止めてくれる受け皿のような政治家、そういったイメージの政治家が民意を集めやすいのではないでしょうか。
衆院選では過去最大級のコロナ禍ということもあって、更なるSNSの活用が期待されるところです。衆院選2021・予定候補者のアカウント所持数を見てみると、ほとんどの候補者がメディアを活用しています。コロナ禍によって選挙におけるSNS活用が、効果を評価するものだった印象から、日常から国民とのコミュニケーションをとり、政治家として”説明責任を果たすべき活用ツールであるという認識に変わりつつあります。秋の衆院選に向けて今こそ、これまでの発信を改めて見直すべきタイミングなのかもしれません。

最後に、今回質的に捉えてきたメディア活用ができることには限りがあり、元の候補者の素材を魅力的に見せる一つの発信ツールに過ぎません。最終的に政治家として、有権者にわかりやすく自分の言葉で語れるかどうかが、何よりも大事だということを忘れてはなりません。どんなに綺麗にタイムラインを整えても、インターネットの発信力を高めたとしても、最後に武器になるのは「ご自身の言葉」です。よそから借りてくるものではなく、あなたにしかない言葉を語ることによって、聞き手の心を動かせることができるのです。
総裁選挙、衆議院選挙はもう目の前に迫っています。政治家のSNS活用はどのように変容を遂げていくのでしょうか。引き続き、政治家のSNS活用をリサーチしていきます。
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