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日本のサイバー犯罪捜査の課題は何か。時代の先を読む枠組み作りが必要だ

2020/1/18

選挙ドットコム編集部

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3 日本の状況

(1)我が国における裁判例

国外にあるサーバのデータを捜査機関が取得することが問題とされた裁判は、日本においても存在する。以下、2つの事例を紹介する。

東京高裁平成28年12月7日判決

本件は、被告人が、インターネットを通じて運転免許証偽造や放火の実行犯を募集し、メールを用いて共謀を行い実行に至ったという事件である。

警察官らはいわゆるリモートアクセスによる複写処分が許可された捜索差押許可状(以下、「リモートアクセス令状」という。)により被告人方等の捜索を実施し、パソコンを差し押さえたが、捜索・差押えの時点では、パソコンにログインするパスワード等が不明であり、リモートアクセスによる複写の処分ができなかった。

その後、警察官らは、パソコンのハードコピーを作成、解析して、メール内容を蔵置するサーバにアクセスするためのパスワード等を把握した。そこで、警察官らは、メールサーバへのアクセスも検証のために必要な処分(刑訴法222条、129条)として許容されると考え、改めてパソコンを対象とする本件検証許可状の発付を得たうえで、サーバにアクセスして、メールをダウンロードし、保存するという本件検証を行った。

この事案について、東京高裁は、

「本件検証は、本件パソコンの内容を複製したパソコンからインターネットに接続してメールサーバにアクセスし、メールなどを閲覧、保存したものであるが、本件検証許可状に基づいて行うことができない強制処分を行ったものである。しかも、そのサーバが外国にある可能性があったのであるから、捜査機関としては、国際捜査共助等の捜査方法をとるべきであったものともいえる。そうすると、(中略)本件検証の違法の程度は重大なものと言え、このことなどからすると、本件検証の結果である検証調書及び捜査報告書について、証拠能力を否定した原判決の判断は正当である。」

と判示し、検証許可状で行うことができない捜査であったことに加え、主権侵害の可能性を考慮し、結論として証拠能力を否定している。

大阪高裁平成30年9月11日判決

本件は、わいせつ電磁的記録媒体陳列等の罪につき、リモートアクセス令状に基づいて、被告人と共犯者らが共謀の上管理するサーバに対して、役員や従業員らから任意の承諾を得て、その承諾にその承諾に基づいて、リモートアクセスして米国に本社があるGoogleの提供するメールサーバ等からメール等をダウンロードして収集し、パソコン上に管理画面等を表示させてその画面を検証許可状に基づいて検証し写真撮影するなどして証拠を収集した事案である。

この事案について、大阪高裁は次のように判示している。

「我が国の捜査機関が,国際捜査共助の枠組み等により相手国の同意ないし承認を得ることなく,海外リモートアクセス等の処分を行った場合には,強制捜査であれ,任意捜査であれ,その対象となった記録媒体が所在する相手国の主権を侵害するという国際法上の違法を発生させると解する余地がある。そして,相手国の主権を侵害しており,国際法上の違法があるといえる場合には,この違法が当該捜査手続に刑訴法上も違法の瑕疵を帯びさせることになると考えられる。
しかしながら,相手国が捜査機関の行為を認識した上,国際法上違法であるとの評価を示していればともかく,そうではない場合に,そもそも相手国の主権侵害があったといえるのか疑問がある。その点は措いて,外国の主権に対する侵害があったとしても,実質的に我が国の刑訴法に準拠した捜査が行われている限り,関係者の権利,利益が侵害されることは考えられないのであり,本件においては,後に詳論するとおり,リモートアクセス等は,実質的に司法審査を経た本件捜索差押許可状に基づいて行われていると評価することができるのであるから,被告人らに,このような違法性を主張し得る当事者適格があるかどうかも疑問である。しかも,違法収集証拠として証拠能力が否定されるのは,捜査手続に令状主義の精神を没却するような重大な違法があって,これを証拠として許容することが将来における違法な捜査の抑制の見地から相当でないと認められる場合に限られるから,上記主権侵害から生じた違法は,それだけで直ちに当該捜査手続によって得られた証拠の証拠能力を否定すべき理由とはなり得ないというべきである。」

本判決も、先の東京高裁と同様、リモートアクセス令状により、海外にあるサーバに保管されているデータの差押え等の処分について、相手国の主権を侵害する国際法上の違法を発生させると解する余地があるとし、その違法が刑訴法上も違法である可能性が否定できないとした。

しかし、相手国が捜査機関の行為を認識していない場合には主権侵害が起きるかどうか疑問とした上で、「被告人らに、このような違法性を主張しうる当事者適格があるかどうかも疑問」とする当事者適格否認の法理を持ち出して、海外サーバからのデータ収集による証拠排除の主張を退け、結論としては証拠能力を肯定した。

(2)リモートアクセスと主権侵害

両判決は証拠能力に関する結論は別にするものの、共通しているのは、サーバが他国にある場合のリモートアクセスは当該他国の主権侵害を惹起すると評価する点である。この点に関しては、日本政府も、リモートアクセスを許容する法改正の時点から現在に至るまで一貫して、サーバが他国にあると疑われる場合は、当該他国の主権との関係で問題を生じる可能性を考慮し、リモートアクセス令状によらず捜査共助等を利用する運用が望ましいとしている[7]。

しかし、サーバが少しでも海外に存在する可能性がある場合に捜査を禁止することは、実質的にはリモートアクセスによる捜査を不可能とするものである。そのような硬直的な解釈では、増大する越境捜査の必要性に対してあまりに不都合ではなかろうか。

一方、米国での議論を参照すると、Microsoft訴訟においては、SCAが国外に保管されているデータにも適用されるかという点が問題とされたにとどまり、外国の主権侵害という点は何ら問題とされていなかった。また、クラウド法は、米国の捜査当局が他国所在のサーバに対しても執行管轄権を行使できることを前提としているし、クラウド法について反対する見解が指摘するのも専らデータ保護との関係であり、それによる外国の主権侵害という点は問題とされていないようである[8]。このような米国と日本の議論状況の違いには、日米の越境捜査に関する態度の違いが如実に表れているように思われる。

そもそも、他国の領域における捜査活動であっても、当該他国居住者の権利の制約を伴わないインターネットを通じた任意の情報収集活動は、諸外国において一般に許容されている。また、外国サーバに対するリモートアクセスが主権侵害であるとする確立した国際法は存在しないと言われており、外国サーバに対するリモートアクセスは広範囲の国で行われているとの報告もなされているところである[9]。

サイバー犯罪条約もその32条において、「公に利用可能な蔵置されたコンピュータ・データにアクセスする場合」または「コンピュータ・システムを通じて当該データを自国に開示する正当な権限を有する者の合法的なかつ任意の同意が得られる場合」には、締約国は他の締約国の許可なしにそのデータにアクセスすることができるとする[10]。

このような国際理解と条約の定めを考慮するならば、外国の主権侵害への配慮は、捜査権が少しでも外国に及ぶか否かではなく、実質的に外国居住者の権利を侵害しているか否かにより判断すべきとの見解も主張されており、妥当な指摘と思われる[11]。国家主権の侵害という抽象的危険を過度に重視するあまり、具体的危険を生じさせている犯罪の捜査が困難となっている解釈、運用は見直される必要があるであろう。

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2023年に年間1億PVを突破した国内最大級の政治・選挙ポータルサイト「選挙ドットコム」を運営しています。元地方議員、元選挙プランナー、大手メディアのニュースサイト制作・編集、地方選挙に関する専門紙記者など様々な経験を持つ『選挙好き』な変わった人々が、『選挙をもっとオモシロク』を合言葉に、選挙や政治家に関連するニュース、コラム、インタビューなど、様々なコンテンツを発信していきます。

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