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北海道補選に見る新しい政治参加「ソーシャル・ボランティア」

2016/4/26

増沢諒

増沢諒

注目されていた衆議院北海道5区補選は、接戦が続いていたが最終的には

和田義明 自民  新 135,842票 当選
池田真紀 無所属 新 123,517票

という結果に終わった。
野党共闘へのアレルギーや、野党への失望感など、池田陣営の敗因もいくつもあるだろう。一方その中で、これまでの選挙では見られなかった、新しい動きが出てきており、「評価に値するのではないか」と期待できるものがある。
それが、「ソーシャル・ボランティア」とでも言うべき、SNSを媒体として広がり、リアルな行動にまで結びついたボランティア活動だ。

 

■ ビジュアルに訴えかけるPV、ハッシュタグ…ネットでの拡散を狙った池田陣営

池田陣営は一貫して、ネットでの拡散を狙い、ボランティアのパワーを巻き込もうとしてきた。例えばプロモーションビデオ。

選挙に向けた動画とは思えないほどクオリティが高く、思わず見入ってしまう。動画の中では、候補者である池田氏にはフォーカスを当てず、むしろ、池田氏応援するボランティアを映している。これまでの政治家の動画は、政治家自身の自己紹介・政策の話ばかりで、SNSで拡散するには抵抗感があっただろう。しかし、池田陣営のPVは、SNSで拡散され得るクオリティであった。
さらに、このPVにあわせて、Twitterでは「#イケマキ」を展開し、選挙期間に入ってからは毎日数百件のツイート、投票日前日の4月25日には2,605件ものツイートがされている。

ツイートには、池田氏を応援する方が作ったと思われる、「拡散されやすい」ようなビジュアル的にも優れている画像が添付されていた。

(Twitterで拡散されていた画像。シンプルだが、必要な情報がコンパクトにまとめられている)

Twitterで拡散されていた画像。シンプルだが、必要な情報がコンパクトにまとめられている

 

■ 勝手連の進化系。ソーシャル・ボランティア

選挙をボランティアのパワーで盛り上げる、というと、古くから「勝手連」という活動がある。候補者陣営が、当選に向けて活動するのではなく、候補者陣営に属していない人々が、「自発的に」「勝手に集まって」候補者を応援する活動のスタイルである。一般の市民の方が積極的に活動することは少なく、ほんどの場合はある程度政治的な思想を持ち、活動にも積極的に参加してきた「市民活動家」たちによる活動であることが多い。その起こりは1983年の北海道知事選と言われ、40年の歴史を持つ活動スタイルである。そして、その勝手連がFacebookやTwitterなどのSNSの普及と相まって、今回、進化した。

今回の補選では、FacebookやTwitter上で池田氏を応援する勝手連が作られ、池田氏を応援していた。これだけでは、近年見られていた勝手連と同じである。しかし、今回の勝手連は、単なるSNS上での応援に留まらず、「電話がけ」というリアルな行動にまで結びついていた点が、目新しい。
「電話がけ」とはその名の通り、有権者のお宅に電話をかけ、「◯◯への投票をお願いします」と、投票依頼をするものだ。街頭演説・チラシ配り・ポスティングなどとあわせて、選挙ではよく使われる告知方法ではあるが、ボランティアの方にお願いするには、かなりハードルが高い。その結果、これまでのオンライン上の勝手連は、「SNS上だけで盛り上げる」ことが多かった。盛んにシェアやリツイートされるが、それだけでは、「SNSだけ」の盛り上がりであり、その情報に触れる人も少ないであろうし、実際に有権者の投票行動を変化させるほどの影響力も、持っていなかっただろう。

(Facebookページの画像。Facebookページ、イベントページを起点に電話作戦が広がった)

Facebookページの画像。Facebookページ、イベントページを起点に電話作戦が広がった

 

■ 全国から北海道へ、5万件の電話が届く

今回、池田氏の「でんわ勝手連」ではFacebookのイベントページを起点に、公式発表では全国から600名弱のボランティアが集まった。しかも、その発起人メンバーは、九州や静岡、東京など、北海道から遠く離れている地域に住んでいる人であることも興味深い。
最終的には、当初の目標を大きく超え、5万人以上に電話をかけている。公職選挙法に従い、投票日前日までは池田氏への投票依頼、投票日には特定の候補者への投票依頼はせず「投票に行くこと」を促進してきた。

(Facebookイベントページに投稿された画像。市民のパワーが集められている様子が伝わる)

Facebookイベントページに投稿された画像。市民のパワーが集められている様子が伝わる

 

■ ボランティア活動の一歩先への期待感

これまで、「選挙のボランティアに参加する」というと、ほとんどの人が街頭演説に参加したり、講演会を聞きに行ったり、と「情報を受取る」行動を指していた。しかし、今回の補選で見られた勝手連では、電話作戦を行うなど「情報を発信する」行動が見られるようになった。
電話作戦は古くから見られる手法であるが、それが今回の補選を通して、FacebookといったSNSと掛け合わされ、活動が爆発的に大きくなった。

ネットでの呼びかけが起点になり、「電話がけ」というリアルな行動にまで結びついたのは、2009年のオバマ選挙の形に、日本も近づいてきたような印象を受ける。オバマ陣営ではボランティアによる電話がけの件数は40万件以上と言われており、まだまだ数には開きはあるものの、「ネット→リアル」と結びついた行動が見られたことは、評価できるだろう。

 

選挙に関心の無い人からすると投票依頼の電話は迷惑であろうし、急に始まった勝手連であったため、マニュアルがあっても間違ってしまい、逆効果になることなど、全てが評価できるわけではない。さらには、結局盛り上がりに参加したのは、「ある程度政治思想を持っていた市民活動家の層」だけで、決して一般の市民が参加するまでに至っていないのかもしれない。しかしながら、今回Facebookを起点にリアルな活動にまで結びついた勝手連は、新しい市民運動型選挙始まりとして、期待できるのではないだろうか。

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増沢諒

増沢諒

増沢諒 1988年長野市出身。早稲田大学、東京工業大学 修士課程修了。研究テーマは「政治家のSNS利用」。 2014年マニフェスト大賞受賞。ITベンチャー企業や政治家秘書などを歴任。

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