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最終目標を達成すればN国党は解党すると明言。次の総選挙でもゴールを見据えた選挙戦略が|NHKから国民を守る党の戦略【後編】(畠山理仁)

2019/8/6

畠山理仁

畠山理仁

本記事は前編・後編の二部構成です。前編はこちら

勝つのは簡単。N国勝利の方程式

結党からの6年間、立花は全国各地の地方選挙に候補者を擁立して有権者の動向を分析し、選挙に勝つためのノウハウを蓄積してきた。N国から立候補する候補の多くは、立候補する選挙区とは縁がない「落下傘候補」が多い。それでも当選するのは、日本全国津々浦々まで知れ渡った「NHK」というブランドに反発を覚える人が一定数いるからだ。

落下傘候補が選挙に勝つための方法を、かつて立花は筆者にこう語った。
「一度の選挙で複数人の当選者が出るような選挙が狙い目です」
つまり、市議選や区議選など、20人〜50人ほどの定数に、60人近い候補者が出るような選挙だ。簡単に言えば、有権者が候補者の顔と名前を一致させることが難しいような選挙である。そのような場合に「NHK」という誰もが知っている名前が入っている党名は印象に残るのだという。
「こういう選挙では、ワン・イシューが強い。まずはポスティングで空気を温め、アウェー感をなくします。それから駅頭でのビラ配り。葛飾区議選の時にはポスティングを3回やりました。白黒のビラなら1枚1円で済む。そして街宣車での演説。これで当選ラインに到達できる。本当に簡単なんですよ」(立花)

実際、今年4月に行なわれた統一地方選挙では、この手法でピーク時には39人の地方議員を抱えるまでになった(その後、除名処分や離党、別の選挙への立候補などで所属議員は27人に減少したが、参院選での立花孝志当選、丸山穂高入党、8月4日の柏市議選で大橋昌信が当選して30人になった。この先も続々と地方選挙に候補者を立てる方針だ)。
N国のもう一つの特徴は、各候補者が携帯電話の番号を公開していることだ。候補者と有権者の距離をここまで縮める手法は、既存の政党にはなかった。
NHK集金人の被害に困った人が電話をかけて候補者が動けば、相談者は有力な支援者に変わる。N国はNHK受信料を入り口に、これまで政治の世界からは距離を置いていた新たな支持者を引きつけた。そのフットワークの軽さはネット上だけの支持にとどまらず、実際に投票所に足を運ばせる原動力にもなっている。

今回の参院選で、N国は「勝ち目がない選挙区」(立花)に37人もの候補を立てた。これは「選挙区での合計得票率2%」という政党要件を満たすための戦略だ。

もともと立花は参議院選挙を10人の候補者で戦う予定だった。しかし、途中で候補者の数を41人(選挙区37人、比例4人)へと大幅に変更している。
今回の参院選では野党共闘が実現したことにより、1人区での立候補者が「与党対野党対N国」の構図になったことが大きな理由だ。特に地方の選挙区の場合、候補者が3人しかいなければ、地元紙には名前と党派と顔写真が載る。そのため有権者の意識には「N国」が刻まれる。与党にも野党にも入れたくない人は一定数いるため、受け皿にもなる。

また、参院選の場合は衆議院と違い、政党要件を満たしていない政治団体の候補者も政見放送ができる。供託金300万円を広告費と考えれば費用対効果は抜群だ。
立花がユーチューブで候補者を募集すると、あっという間に立候補希望者が集まった。「自分は選挙に出られないが、お金だけ出したい」という人もいたという。
N国は、2016年に幸福実現党が全国47の選挙区に候補者を立てた際、「選挙区での合計得票率が1.7%」だったことを知っていた。ここにN国が各地で重ねてきた地方選挙の経験を重ね合わせ、「選挙区での合計得票率2%」なら確実にクリアできると踏んだのだ。
最終的に、比例での得票率は1・97%で、政党要件を満たすまでには至らなかった。しかし、二段構えで臨んだ「選挙区での合計得票率」は3・02%となり、目論見通り、N国は政党要件を満たすことに成功した。

数を増やせば影響力は拡大する

今回のN国の選挙区の候補者たちの政見放送は、コスプレや寸劇、無言に暴言など、常識の枠を超えた奇抜なものが多かった。政見放送はすぐにユーチューブにアップされ、ネット上で注目を集めた。
とくに、立花が「不倫路上カーセックス」と連呼する比例の政見放送の再生回数は365万回を超えた。これは自民党の15万回、れいわ新選組の62万回を大きく上回る。すべてN国の作戦通りだが、N国はここでも新たな層の掘り起こしに成功したと言えるだろう。

N国に対する根強い批判がありながらも、N国は選挙で勝利する。それはN国が有権者の投票行動を見透かしているからだ。
とくに、参院選の投票は、1枚目が選挙区の投票用紙、2枚目が比例の投票用紙だ。選挙区の投票の際に目に入ったN国の印象が、そのまま比例の投票の際にも残る。その宣伝効果が比例の票を伸ばし、結果的にN国は約98万票を獲得。参議院最後の1議席を獲得し、立花は結党当初の目標である「国会での1議席」を実現した。
N国の選挙戦略は、常識的な選挙しか知らない人たちには驚くほど不謹慎に映るだろう。しかし、現行のルール上は問題がない。倫理上、道義上の問題があったとしても、実は驚くほど緻密な分析、戦略に基づいた6年計画だったのだ。

代表の立花孝志が参議院比例で当選すると、N国はさっそく勢力拡大に動き出した。
参議院議員としての任期が始まったばかりの7月29日、立花は北方領土をめぐる「戦争」発言で日本維新の会から除名された丸山穂高衆院議員と並んで記者会見を開き、丸山のN国への入党を発表した。
その翌日には、行革担当大臣を務めた渡辺喜美参院議員と新会派「みんなの党」を結成したことも発表した。この他にも、立花はさまざまな事情から無所属になっている“わけあり”議員たちを引き込もうと奔走している。会派を結成したことにより、参議院予算委員会の最後の1枠をくじで引き当てて獲得する強運にも恵まれた。

こうした勢力拡大の思惑を一言で言えば、「NHKの討論番組に出たい」(立花)ということだ。
政党要件には「得票率2%」の他に、もう一つ「国会議員5人以上」という条件がある。NHKは両方の条件を満たさないと出演させないという自主規制をしているため、N国はNHKが出演を断れない状況を目指している。NHKにとっては最高の嫌がらせだろう。
また、党所属議員の数が増えれば、国会でもキャスティングボートを握れる。与党が「憲法改正に必要な3分の2の勢力が欲しい」というときに、今は議席数が足りない。仮にN国が勢力を拡大していけば、「NHKのスクランブル放送化に賛成するなら、憲法改正論議に応じる」という交渉カードも手にできるのだ。
無所属議員にできることは限られる。また、政党交付金の恩恵も受けられない。政党交付金の額は、国会議員一人につき年間約2400万円にもなる。
丸山議員もそうだったが、「NHK問題以外は党議拘束もなく自由。政党交付金はそのまま横流しする」(立花)と言われれば、入党するメリットは大きい。特に次の選挙での苦戦が予想される“わけあり無所属”の議員にとっては、願ってもない話になるだろう。

有権者は何をするべきか

N国の最終目標は「NHKのスクランブル放送化」だ。つまり、受信料を払っている人だけが見られる放送にする。逆に、払っていない人は見られないようにする。契約の自由を認めさせようというのが目標だ。
それが実現すれば「党は解党する。自分も国会議員を辞める」と立花は明言している。
そのため、無所属の議員を引っ張ってくるだけでなく、次の総選挙では全国11の比例ブロックに候補者を立てて党勢拡大を狙うことも立花は明言している。立花自身が参院議員を辞職して、総選挙に出る可能性にも言及している。今回、N国が比例で4人の候補を立てていたのも、立花自身が任期途中で参院議員を辞任して総選挙に出た場合、繰り上げ当選でN国の1議席を守るためだ。
「けしからん」と思う人もいるだろう。しかし、現行のルール上は問題がない。立花は現行の選挙制度を研究し、そこまで考えて選挙を戦ってきている。こうした態度は、常識的な選挙戦略で議席を獲得することができた既存政党にはなかったものだろう。

ここで忘れてはいけないのは、N国が国会に議席を取れた根本的な理由だ。
それは「選挙に立候補したから」である。もし、有権者がN国の候補者を当選させたくないのであれば、N国から議席を奪える候補者を立てたり、別の候補者を応援したりする必要があったということだ。
結果として、有権者はそれができなかった。だからN国は当選することができた。
そう考えたとき、有権者はすぐに候補者を用意できるだろうか。おそらくできないだろう。自分自身が選挙に出ることも難しいと痛感するだろう。そして、これまで自分たちが数多くの候補者を、あまりにも粗末に扱ってきたことにも気づくはずだ。
N国の候補者たちも、かつては粗末に扱われてきた存在だ。メディアからも有権者からもほとんど無視されてきた。だからこそ、現行のルールの中で「持たざるもの」が当選するにはどうすればいいかをとことんまで考え抜いてきた。

今、N国の動きに翻弄されている有権者は、過去の自分たちの行動のツケが生み出した「民主主義のモンスター」に逆襲されていると思ったほうがいい。
N国に限ったことではないが、政治家は「崇拝する対象」ではない。あくまでも「有権者のかわりに議会で議論をする人」だ。選挙の結果が出れば終わりではなく、当選後も「この議員に税金が使われていいのか」と監視していくべき対象だ。文句があれば言うべきだし、要望があれば伝えるべきである。
こうして有権者が候補者や政治家を育てていくことでしか、社会は良い方向に向かわない。つまり、「有権者は常に試されている」ことを再認識したほうがいい。
N国の言動に腹を立てる前に、有権者は「民主主義の原点」に立ち返ることが必要だ。
(文中敬称略・了)

本記事は前編・後編の二部構成です。前編はこちらから

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畠山理仁

畠山理仁

フリーランスライター。第15回開高健ノンフィクション賞受賞作『黙殺 報じられない“無頼系独立候補”たちの戦い』(集英社)著者。他に『記者会見ゲリラ戦記』(扶桑社新書)、『領土問題、私はこう考える!』(集英社)など。興味テーマは選挙と政治家。

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