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特集|高齢化社会の実態。町村の約1/4が選挙にすらならない現状を打開するためには

2018/5/14

選挙ドットコム編集部

選挙ドットコム編集部

今年4月には全国各地で地方議員選挙が行われ、地域の行政を担う新たな顔ぶれが続々と決まりました。

数多くの候補者が当選を目指してしのぎを削りましたが、なかには「立候補者数が議員定数ぴったり」、「定数以下だったため無投票」であっけなく当選が決まった地域も少なくありません。

なかでも長野県・小谷村の村議会議員選挙は、立候補予定者が思うように集まらず、危うく選挙自体が成立せず、「再選挙」となるところでした。いったいどうしてこのような事態に陥ったのか、そもそも選挙の不成立・再選挙とはどういうことなのか、そして小谷村では最終的に急転直下で選挙が成立した理由などを調べてみました。

小谷村「再選挙の危機」の真相とは

10人の村議会議員定数に対し、立候補者8人以下なら再選挙!
なのに当初、立候補の意向を表明したのはたったの5人

今年4月に議員の任期満了に伴う選挙を前に、長野県・小谷村の村議会は大ピンチに陥っていました。立候補者が見つからず、選挙そのものが成立しない事態に陥りそうだったからです。
小谷村議会議員の定員は10人。実は今回、選挙前に現役議員の10人中7人が、高齢などを理由に引退する意向を表明していました。つまり現役のうち、議員続投(選挙への立候補)の意欲を示したのは10人中3人だけでした。

村の人口減少や高齢化により議員候補者が集まりにくい傾向にある小谷村では、なんとか残り7人の枠を埋めようと、議員や地区の役員が後継者探しに奔走しましたが、手を挙げてくれた新人は、たったの2人…。現役3人+新人2人=候補者5人(5人不足)で、このままでは、無投票どころか、選挙自体が不成立になって、再選挙となってしまいます!

【再選挙とは】 公職選挙法では「立候補者が定数の六分の五に満たない場合は、原則として投開票を予定していた日の翌日から五日以内に当選者を正式に決め、その翌日から十四日間の異議申し立て期間を経て、最終日の翌日から五十日以内に欠けた分の議席を争う再選挙を実施する」と定められている。

つまり、「定数10人」の小谷村の場合、立候補者が9人ならば「無投票」となって全員当選、欠員1名のまま村議会はなんとか運営できますが、立候補者が8人以下なら選挙は不成立となってしまい、9人目の立候補者が現れるまで再選挙が続くことになってしまいます。なお、再選挙の回数には制限がありませんので、永遠に再選挙が続くこととなってしまいます。

新聞やテレビ、ネットなどでも小谷村の議員候補者不足による再選挙の危機は大きく取り上げられ、全国の注目を集めることになりました。

再選挙を回避するために、引退表明を撤回する議員も続出。
それでも公示日当日まで「最後のひとり」が決まらない!

小谷村では昔から、村内8つの地区からそれぞれに代表となる候補者を出して、村議会を構成していました。今回もそれぞれの地区の役員や現役議員が必死で後継者を探し、めぼしい人を片っ端から口説いたものの、新人として立候補を決意したのはたったの2人だけでした。

そのため1度は議員引退を表明していた現役議員が、次々に引退撤回を表明しました。それでも、公示の5日前に行われた、立候補に必要な書類の事前審査に現れたのは、候補者7人の陣営だけ。再選挙はますます現実味を帯び、村には危機感が募りました。その後も、必死の候補者探しが続きましたが、公示日前日に立候補の意向が確定したのは8人。「あとひとり」がどうしても決まらないまま、公示日当日を迎えることに

「いよいよ再選挙か?」

有権者である村の住人だけでなく、全国が注目した公示日の当日。急遽、9人目の立候補者として名乗りを上げたのは、引退を決めていた現役議員の横澤かつ子さんでした。4期16年、村議員を務めた横澤さんは、74歳という年齢から引退の意志を固めていましたが、自身の後継が見つからなかったことと、周囲からの「村の危機を救ってほしい」という声に押され、ギリギリまで悩んだ末に立候補を決意しました。

こうして小谷村は、辛くも再選挙を免れたのです。9名の立候補者は無投票で、全員当選。村議会は、なんとか再選挙を回避できました。しかし昭和33年に村ができてから、初の「定員割れ」に、村の関係者の今後への心配は大きくなるばかりです。

毎回、投票率は80%程度だった村議会選挙に何が起きた?今後、欠員の1名はどう選ぶ?

今回の村議会選挙について、小谷村選挙管理委員会の藤原さんにインタビューを行いました。

-選挙ドットコム
今回、ぎりぎりのところで再選挙を免れた小谷村村議会ですが、前回選挙でも無投票で当選が決まったのでしょうか?

-小谷村選挙管理委員会 藤原さん(以下、藤原さん)
いえ、4年前の前回選挙には11人の立候補者があり、選挙によって定数10名を決めました。

-選挙ドットコム
村議会議員選挙の投票率は、どのくらいでしょうか?

-藤原さん
小さな村ですから、地域の選挙には多くの方が参加されます。毎回80%くらいの方が、投票されていますね。

-選挙ドットコム
候補者がなかなか見つからないとはいっても、村議会自体に無関心なわけではないのですね。議員のなり手がいないのは、どのような理由が考えられますか?

-藤原さん
小谷村は小さな村で、今回の選挙の有権者は2,524人です。村内は高齢化が非常に進んでおり、長年議員を務めてくださった方も、ご高齢で健康に自信がないなどの理由で引退される方が増えました。今回は、そうした理由で引退表明されていた方々が、引退を回避して続投してくださったために、なんとか候補者が集まったわけです。

-選挙ドットコム
逆に、若い世代の方々が、議員を務めるのは難しい状況なのでしょうか。

-藤原さん
小谷村議会の議員報酬は、月に18万円ほどです。小谷村は、自営業者や農業を営む方が多いのですが、30代や40代の働き盛りの方が本業を控えるなり、辞めたりして議員報酬だけで生活するのはなかなか難しいものがあります。

-選挙ドットコム
議員のなり手不足で選挙が不成立になるのを避けるという意味で、議員定数の削減や議員報酬のUPなど、なにか対策は考えられていますか?

-藤原さん
そうしたことは選挙管理委員が決めることではありません。今回の定数割れや再選挙の危機を踏まえ、今後、村全体で考えて村議会で話し合われるかもしれませんね。ちなみに、新たな議員による定例議会は、6月に行われます。

「珍事」や「他人事」ではない地方議員のなり手不足問題

地方議員の「なり手」不足は、全国的な問題。
3年前の統一地方選では、無投票となった町村議員選挙は約24%

小谷村の再選挙の危機について「高齢化が進む過疎の村で起こった珍しいニュース」と、とらえるのは、大きな間違いです。

たとえば3年前の2015年春に行われた統一地方選挙。再選挙の危機はなんとか免れることができるとしても、定数枠分ぴったり、あるいは定数の6分の5以上(欠員があるものの再選挙は回避できる)しか候補者が集まらず、無投票当選となった町村議員選挙は、373町村議選のうち89町村。なんと約24%の町村では、投票なしで議員が決まっているのです。

地方議員のなり手不足は、人口減少・高齢化の今、全国的に非常に深刻な問題になっています。

このままでは存続が危うい地方議会。
もはや地方議員は「絶滅危惧種」!?

地方議員のなり手が見つからない原因には、以下のようなことが考えられます。

議員報酬だけでは、生活できない!

10年ほど前の資料になりますが、平成20年の総務省の調査によると、町村議会議員の平均報酬月額は約21万円。日本一議員報酬が安いという噂の東京都・御蔵島村、東京都・青ヶ島村の議員報酬は、月額なんと10万円

これでは子供や家族を養う若い世代が、本業を辞めて(休んで)議員報酬だけで生活するのはかなり困難でしょう。また、、地方議員は兼業が認められていますが、建設業など地元の自治体から仕事を請け負っている人場合は議員になることができません。地域のかかわりが大きい小さな地区であればあるほど、兼業は難しくなってしまいます。

【地方議員の兼業についての法律】
地方自治法 第百四十二条
普通地方公共団体の長は、当該普通地方公共団体に対し請負をする者及びその支配人又は主として同一の行為をする法人(当該普通地方公共団体が出資している法人で政令で定めるものを除く。)の無限責任社員、取締役、執行役若しくは監査役若しくはこれらに準ずべき者、支配人及び清算人たることができない。

また、兼業が認められていても、平日の昼間に何日にも渡って行われる議会に出席するのは、会社員などの場合は難しいでしょう。

しかも、地方選挙とはいえ、選挙戦にはそれなりに費用がかかります。地方財政が困窮し、議員報酬・経費削減の声はますます高まっていますが、すでにこれ以上、削りようがないところまで来ているのかもしれません。

ボランティアや名誉職として議員になるならこれでもよいのでしょうが、純粋な仕事として見た場合、地方議員はかなり「ブラック」な仕事といえそうです。

現役議員の「超高齢化」

多くの地方議会で、ベテラン議員の引退が相次いでいます。
何期も議員を務めてきたものの、70代・80代になれば、体力的に議員活動を続けるのが難しくなったり、健康面でも持病などを理由に引退を決意するベテラン議員が急増します。一方で、若手の新人は本業との兼ね合いや低報酬、政治への無関心などが原因で、なかなか手をあげる人が現れません。

超高齢化したベテラン議員の引退(死亡)と、後継の不在によって、地方議員立候補者はもはや「絶滅危惧種」としてレッドリストに加えなくてはならない、希少な存在なのかもしれません。

若手増額に議会の夜間開催、廃止した議員年金の復活まで
トライ&エラーで、なり手不足解消に挑む

議員のなり手不足に悩む当事者の地方議会はもちろん、各政党もこの危機感をひしひしと感じ取っており、様々な対策も考えられています。具体的な対策とその結果を見ていきましょう。

若手議員は報酬UP!

長崎県・小値賀町議会は、若手議員のなり手不足を解消しようと2015年3月に、50歳以下の議員報酬を増額する条例を定めました。通常、月額18万円の議員報酬を、50歳以下に限って30万円に大幅増額したのです。

ところが、条例成立翌月の統一地方選に立候補した候補者の最年少は57歳で、該当者はゼロ。現在も町議は全員、60~70代です。この条例によって「金目当てで議員を目指す人が出る」と批判される可能性があり、かえって若手の新人が立候補しづらくなりかねないと判断した議会は、2019年に行われる町議選を控える2018年3月、この条例の廃止を決定しました。議員報酬増額作戦は、該当者0人、わずか3年で終了。今後は年齢ではなく、子育て世代など議員の立場に応じた手当の導入を検討していくそうです。

議員定数の削減

立候補者が定数に満たなくて再選挙の必要があるというのであれば、「いっそ定数自体を減らすのはどうか」という意見は、以前から数多くありました。

しかし実際、過疎に悩む地方自治体では、議員定数削減を検討、あるいはすでに断行しているところがほとんどで「これ以上減らしようがない」というのが、正直なところです。
ちなみに、東京都の御蔵島村、北海道の音威子府村、東京都の青ヶ島村、沖縄県の与那国町の定数は、なんと6人のみ! 立候補する人がいないからといって、どんどん定数を減らしてしまうと、住民の代表者が参加する議会そのものの意味がなくなってしまいそうです。

議会を夜間・休日開催に

2017年、長野県・喬木村は村議会の主要日程を、夜間や休日に移す方針を固めました。これまでも他の地方議会で、傍聴者を増やすために、年に1・2回、休日や夜間に議会を開く例はありましたが、主要日程をすべて夜間・休日移す例は喬木村が初でした。

平日の昼間にも仕事を持っている若い層が、本業を続けながら議員活動ができるようにするのがその狙いです。実際に、2018年度の6月定例議会の日程案を見てみると、本会議の開会や一般質問の一部は平日の朝9時から行われるものの、一般質問の一部は土曜日の午前、各委員会(一部)は平日午後7時から行われることが予定されています。

共働き家庭が増えた今、小中学校のPTA活動でも多くの保護者が参加できるように、会議・打ち合わせなどを夜間・休日に行うというケースも増えてきましたが、自治体の議会で夜間・休日開催を断行するのはスゴイ!

一度は廃止した「議員年金」の復活案も

昭和36年に創設された地方議会年金制度は、平成23年に廃止されています。地方議員年金とは、地方議員が退職後に受け取れる年金の事ですが、他の国民年金などよりも非常に条件が良いことや、年金の源泉が国民の税金であること、国民年金と併用でもらえることなど、不公平感が強いことから廃止になったという経緯があります。

ところが最近、この議員年金を復活させることで議員のなり手を増やすというアイディアが出始めました。議員は、これまでの仕事を辞めて立候補した場合、次回選挙で落選したら、とたんに収入がなくなってしまうリスキーな仕事。こうした将来への不安感こそが、若手が議員立候補をためらう理由ではないかと考え、その補償の意味で年金復活の案が浮上しています。

政権与党である自民党内でこのような案が話題として挙がる一方、野党の日本維新の会や立憲民主党、また自民党の中からも反対する意見が出ていて、実際に復活するかどうかはわかりません。

議会自体を廃止するという選択も…

2017年、高知県の大川村では、議員のなり手が不足したことから、村議会を廃止して町村総会設立の検討を始めました。
過去には無人島となった東京・八丈小島の旧宇津木村(当時の人口は約60名)で、1951年から4年間、町村総会が実施された例がありますが、具体的な運営方法を定めた条例を制定するなど、手続きも数多く必要で、難航が予想されています。現在も村議会で検討が続いているようですが、その成り行きを、固唾を飲んで見守っている地方自治体は少なくないようです。

今後も大きな課題として残り続ける

報酬の増額や年金復活などには税金も投入されることから、賛否が大きく分かれています。今後も全国で立候補者不足が進むものと思われます。地方の自立運営に不可欠な議会存続のために、いろんな案を出し合い、知恵を絞って熱意ある候補者がたくさん手を挙げる工夫は続けていって欲しいものです。

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