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新年に「政治」を考える- 映画「独裁者と小さな孫」



若林良
若林良

かつて『独裁者』という映画があったことは、この記事を読んでいるみなさまの中にもご存じの方は多いと思います。「映画の神様」とも呼ばれるチャールズ・チャップリンの代表作のひとつであり、当時ナチス・ドイツを牽引していたアドルフ・ヒトラーを、ひいては独裁者を喜劇という枠組みで強く批判した作品です。




(Amazonより)

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『独裁者』から70年あまりたった現在、イランの巨匠モフセン・マフマルバフによる、奇しくも同じ「独裁者」というタイトルがついた『独裁者と小さな孫』という映画が公開されました。
なお、これは日本語タイトルの場合で、英語での原題は『独裁者』が「The Great Dictater」という、そのまま独裁者であることに対して、『独裁者の小さな孫』は「The President」、つまり「大統領」となります。劇中でも主人公の呼称は大統領となります。


舞台は実際の国ではなく、架空のどこかの国と設定されている点ではこの2作は重なります。


ただ、この2作の大きな違いは、『独裁者』が国を支配する独裁者・ヒンケルに間違えられた床屋(ここではチャップリンが二役を演じています)の視点で物語が進むことに対し、『独裁者と小さな孫』は大統領とその孫、つまり権力側からの視点を中心としているところが挙げられます。国内でクーデターが発生し、民衆から追われる身となったふたり。旅芸人に身を扮し、各地を転々とします。その中で大統領はさまざまな民衆の姿に触れ、自身が犯した罪を実感するようになります。これが物語における大きな軸で、いわばふたりの逃亡は、自身の「これまで」を振り返る旅にもなっているのです。


逃亡の過程において、自分たちがなぜ追われるのか、理解できない小さな孫は祖父にこう訴えます。「こんなゲームは嫌だ」―なぜ自分たちが民衆に追われる立場になったのか、それを説明することは、自身の「罪」をまた直視することにもつながっていました。それゆえに、大統領はこれはゲームなのだ、と孫に説明します。ゲームだと思い込んでいるために、孫による、なぜこんなに粗末なものを身につけ、粗末なものを食べなければならないのかという素朴な質問は、いまの状態は自分への報いなのだということを示しているようで、大統領の心に強く響きます。旅のそのような過程を経て、皮肉にも大統領は人間性を取り戻していくのです。


本作の製作背景には、イラク戦争によるフセイン政権の崩壊や、チュニジアをはじめとした中東各地で起きた「アラブの春」革命があります。ただ、本作は独裁者と対立する概念である“革命”に肩入れをする作品ではありません。独裁政権が崩壊した後の国は、むしろ強盗やレイプ、殺人などの行為が横行し、民衆たちも決して幸せになっているようには見えません。また、民衆たちは次第に大統領たちを追い詰めていきますが、彼らの血走ったような表情からは、むしろ民衆側が「悪」のように見えてしまいます。これは実際に革命を経た中東・アフリカ諸国の政権が、かならずしも民衆に幸福をもたらしていないことを反映しているとも言えるでしょうし、また「正義」や「悪」が単純な二項対立にはおさまらないことを示してもいるでしょう。むしろ物語が進むうちに私たちは、逃亡を続けるふたりの無事を祈るようにさえ思うようになります。


「眼には眼を」――これはハンムラビ法典の規定にある言葉で、その名の通り被害に対する報復はそれと同様であるべき、という意味です。人を殺したのだとすれば、その加害側も死をもってそれを償うべきという。しかし、果たしてそのような「負の連鎖」で、本当の平和は訪れるでしょうか?自身、抑圧的な政治が横行する祖国イランを離れ、海外を拠点に映画の製作を続けるマフマルバフは、そのような考えをラスト・シーンで強く否定しています。歴史という大きな力に、個人が抗うことはできないかもしれません。しかし、「変えよう」という意志を突き通した先に、初めて本当の平和は訪れる。観賞後にはそのような感慨も、じんわりと、しかし確実に訪れてくるような作品です。


若林良

若林良

1990年神奈川県生まれ。映画批評・現代日本文学批評。 ドキュメンタリーマガジン「neoneo」編集委員。雑誌『週刊朝日』『NOBODY』『映画芸術』、映画サイト『IndieTokyo』(http://indietokyo.com/)などに執筆。専門は太平洋戦争を題材とした日本映画、またジャンルを問わず「社会派」作品全般。

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