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【書評】愛人・政敵・名演説。角栄氏の魅力が詰まった1冊。『角栄の「遺言」』



若林良
若林良

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石原慎太郎元東京都知事が、政敵であった田中角栄氏を題材に書いた「天才」が話題になっています。その本の参考になった『角栄の「遺言」 「田中軍団」最後の秘書 朝賀昭』という本があることを、みなさんはご存知でしょうか?
朝賀昭。本サイトの読者で、この名前を聞いてピンとこない人は多いかもしれませんが、永田町、つまり政治の界隈で生きてきて、彼の名前を知らないという人は、「モグリ」と言っても差し支えはないでしょう(本書「まえがき」参照)。

田中角栄の秘書の中でも“筆頭格”と呼ばれる存在であり、「田中軍団」秘書会の統括、政治団体「政経調査会」事務局長、また細野豪志衆院議員の後援会「豪志の会」において、代表世話人幹事長などを歴任した人物が朝賀氏です。本著は朝賀氏へのインタビューを通して、そのボスである田中角栄の人物像、また彼が歩んだ「昭和後期」という時代の輪郭を明らかにしていきます。

 

高校時代の「割りのいいアルバイト」で田中角栄氏と出会う


朝賀氏がはじめて角栄氏に出会ったのは、1961年のことでした。当時は岸信介内閣が安保闘争の激化によって総辞職を余儀なくされた、その熱気冷めやらぬ時代です。しかしながら、自身はまったくのノンポリであった当時高校生の朝賀氏は、「割のいいアルバイト」として自民党本部で雑用係を割り当てられ、そこで角栄氏と接する機会を得ます。当時の角栄氏はまだ40歳そこそこの若さながら、第二次池田勇人内閣における党政務調査会長に抜擢され、着々と出世の階段をかけあがっていました。「人を強く引き付けるオーラと迫力を持っているように映った」とその第一印象を語る朝賀氏は、やがて政調会長室に配属され、角栄氏と「切っても切れない縁」を結ぶようになります。

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“名調子”と呼ばれる演説。人の心を惹きつける。


角栄氏の魅力は、のちに総理大臣にもなった「偉大さ」にも関わらず、自分のような若者にも気を使わせないような気さくさ、また節々から生命力を感じさせるような胆力にあると朝賀氏は語ります。たとえば、角栄の“名調子”と呼ばれる演説を引用してみましょう。
「私が田中角栄だ。小学校高等科卒業である。諸君は日本中の秀才代表であり、財政金融の専門家ぞろいだ。かくいう小生は素人だが、トゲのある門松は、諸君よりはいささか多くくぐってきている。いささか仕事のコツは心得ているつもりである。私はできることはやる、できないことは約束しない。これから一緒に国家のために仕事をしていくことになるが、お互いが信頼し合うことが大切である。従って今日ただ今から大臣室の扉はいつでも開けておく。事務次官ばかりでなく、今年入省した若手諸君も、誰でも我と思わんものはなんでも言ってきてくれ。上司の許可をとる必要はない。思い切り仕事をしてくれ。しかし責任のすべてはワシが背負う。以上」(p.54)

「決められない政治」とは近年よく聞かれるキャッチフレーズではありますが、この演説はそれとはほぼ無縁な、「俺についてこい!」と言わんばかりの、大きな自信と包容力を感じさせるものです。威厳のある慈父、とでも言うのでしょうか、朝賀氏が角栄氏を「オヤジさん」と呼んで慕うようになったことも、納得できる内容でしょう。

 

愛弟子・小沢一郎氏、愛娘、愛人、政敵… 個性豊かな面々


ただ、「田中劇場」はもちろん、角栄氏ひとりで創り出したものではなく、さまざまな色を持つ“登場人物”たちによって彩られています。“自分の息子”とも呼んでいた愛弟子・小沢一郎氏、「角福戦争」で首相の座を争った福田赳夫氏、のちに外務大臣ともなった愛娘・田中真紀子氏など、政界における大物が揃う中、とくに存在感を放つのは秘書であり愛人・佐藤昭子氏の存在です。彼女は「越山会の女王」とも呼ばれ、長く角栄氏を右腕として支える存在でした。角栄氏との間には一女・敦子をもうけ、やがて朝賀氏の妹のような存在となります。成人した敦子氏の、自身の「不貞の子」としての葛藤や自殺未遂、また文藝春秋の『淋しき越山会の女王』という不倫スクープに揺れる「父親」、「(事実上の)夫」としての角栄としての苦悩もじっくりと描かれ、長年角栄氏に仕えた朝賀氏の経験が生かされています。また自身の視点からのみではなく、ロッキード事件による逮捕、また脳梗塞に伴う「田中帝国」の崩壊が、人物関係や歴史的な動きをしっかりと踏まえた上で描かれ、人間として・政治家としての両面から、より複合的な「田中角栄」という像が浮かび上がります。
 

今の時代だからこそ、角栄氏に光りが当たる


角栄氏の死からすでに20年以上がたった現在。2012年、当時の与党・民主党の大敗を経て、文部科学大臣であった眞紀子氏もまた落選し、「田中王国」は崩壊しました。そしてふたたび自民党政治に変わった現在、内政・外交・安全保障のいずれの面においても、“かつて経験したことのような転機を迎えている”と朝賀氏は語ります。「“角栄だったらどうするか”という声が多く聞かれる現代。そのような時代だからこそ、自分の知る角栄をあらためて伝えたい。この国難を打ち破るヒントを与えたい」――単に昭和史を振り返るのみではなく、私たちが生きる現代を考察する一助としても、本著は多くのものを学べる一冊です。
若林良

若林良

1990年神奈川県生まれ。映画批評・現代日本文学批評。 ドキュメンタリーマガジン「neoneo」編集委員。雑誌『週刊朝日』『NOBODY』『映画芸術』、映画サイト『IndieTokyo』(http://indietokyo.com/)などに執筆。専門は太平洋戦争を題材とした日本映画、またジャンルを問わず「社会派」作品全般。

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