
普段から、締め切りのはるか前に作品を仕上げ、スムーズな進行を続けていた古屋兎丸さんですが、途中「珍しく苦悩が見えた」(担当編集者)ことがあったそうです。
インタビュー第3弾は、その「苦悩」の理由、長期の連載を乗り切る熱い思い、漫画と恋愛の共通点について、熱く語っていただきました。
ーー物語の設定の大枠はあると思いますが、ストーリーはどのようにつくっているのですか?徐々にでしょうか。
『帝一』のように(連載期間が)長いものは、徐々につくっていきます。人(登場人物)が多いですし、一人のキャラクターが意外な動き方をしたことによって、ストーリーがまったく(別のものに)変わることもありますから、キャラクターを動かしてみないと分からないことが多いです。
僕自身、森園億人が生徒会長になることは、思ってもみなかったことです。伏兵として、途中からだんだんと存在感が大きくなっていき、「あれ? これは、億人が生徒会長になるのかな?」という予感とともに描いていました。読者が読んでいるのと近い状態で描いていたかもしれません。
あと、自分で自分を盛り上げるために、ナレーションで自分を煽っていきます。例えば、「このとき帝一は、更なる大嵐に飲み込まれようとは、予想していなかった」と描いて、「どうする? 煽ってしまった」と、その後で考えます。あれは読者を煽っているのではなく、自分を煽っているのです。
ーーすごい裏話を聞いてしまったような気がします。ところで、ストーリー作りにも恋愛期・倦怠期などはあったのでしょうか?
どうしていいか分からないくらい悩む時期がありました。出すキャラクターによって、物語の選択肢が何億通りにも広がっていきます。氷室(ローランド)が飛び降りて、森園が生徒会長になり、その後、新1年生達の登場によって「帝一が更なる窮地に立たされる」というストーリーを描きました。新1年生は全部で12人いますし、それをどのようなキャラクターにするか、想像もつかなかったです。帝一たちの闘いも、1年生の時と、2年生になってからでは「同じことは描けない」という思いもありましたから、どうすればよいのか…と悩みました。
ーー私が同じ立場だったとしたら、辛くてふて寝しそうです。
そこでふて寝をしないのは、「この漫画は面白い!」という、自分の中の確信みたいなものがあるからです。「すごくいい人と結婚したから、なんとかこの状況を乗り越えなくては!」という気持ちです。最初から「イマイチだな」と思う人と結婚したら、ふて寝をして、投げ出してしまうかもしれません。ですが、最初の恋心が強く「これはいいものができそうだ!」という予感が強いからこそ、乗り越えられるのだと思います。最初の設定の面白さや、何もない所からつくり出すという”ゼロからイチ”の部分が重要で、そこに恋ができるかどうかが一番、大きなポイントです。
ーー恋愛や結婚に悩む方に、お知らせしたくなるお話だと思いました。
漫画を通して「結婚」についてよく考えます。実は、半年間くらいずっと考えていた漫画がありました。やる意義がある、やったら面白いと思い「やるべきだ!」と決めました。さまざまな文献を調べ、プロット、1・2話目までのネームを描き、来週から「さぁ作画だ!」という時期になって、急にマリッジブルーになってしまいました。時間にすると何百時間も費やしているのですが、急にイヤになって全部、捨てました。その後、3時間でプロットを立て直したものは、描くことがものすごく楽しく、残りの計200ページのプロットも立ちそうな勢いです。それは(作品に)恋をしているからです。恋をしていると多少、途中で詰まっても乗り越えられます。これと同じように、結婚は、その人の年収などとは関係なく、初期の情熱や恋心で突っ走らないと、絶対ににうまくいかないと思うのです。
ーー結婚となると、最初の条件を気にすることが多いですよね。
漫画家を始める前は、美大を出てから、高校の美術講師を週2日程度やっていて、年収50万とか60万円、月々5〜6万円の収入でした。その後、ガロではギャラ無しで漫画を描いていましたが、今は生活できています。人はどう変わるか分からないですから、「好き」となったら、その人を信用してそこ(結婚)まで行った方がいいのでは? と思うのです。
ーー漫画と恋愛は通じるものがあるのでしょうか?
僕はそう思っています。漫画に対する熱い思いは、最後まで描かせる原動力になると思っています。

ーー最後に、夏に解禁される18歳選挙権について、一言いただけますでしょうか。
選挙をすることの良し悪しは、僕にはまだよく分かりません。しかし、そういう制度になったことで、その先、社会がどのように変わっていき、若者がどのように変わっていくのか? どのような物語が世の中に生まれていくのか? ということに、とても興味があります。もしかしたら、成人年齢の引き下げなどへの一つの布石になるかもしれません。時折起こる、このような大きな変化は、作家としては見逃さないように注視していきたいです。
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